屏風を鑑賞するための基礎知識(1)


ただ今企画展示室で開催中の『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』展は、館蔵品の中から襖(ふすま)絵と屏風(びょうぶ)絵ばかりに的を絞って、その魅力を紹介しようとする展覧会です。襖と屏風はいずれも、壁に掛けられる西洋の絵画(タブロー)とは異なり、建築を彩る調度、実用品として暮らしの中で受け継がれてきた、日本絵画の基本的な形式です。けれどもマンション住まいの人も増えた現代では、この両者、特に屏風は人々にとって馴染みの薄いものになっています。
そこでこのシリーズでは、屏風をもっと深く、そして広く鑑賞するための基礎知識について、幾つかのポイントをご紹介してゆきたいと思います。

屏風は白鳳時代(645年の大化の改新から710年の平城遷都までの時代)に、中国から日本に伝わったと考えられています。「風を屏(ふさ)ぐ」という名前が表わすように、屏風は本来は風や人目を遮るための調度ですが、同時に権威ある者の所在を示す象徴でもあり、その表面には絵画や装飾が施されるようになります。また奈良時代以降は、屏風は主に宮廷や寺院の、盛大な儀式の調度としても用いられたということです。室町時代になると紙の蝶番(ちょうつがい)が発明され、下の写真のような現在私たちが見慣れている、「く」の字型が連続して蛇腹状に折り曲げて畳める、屏風の形式が確立しました。

横に幾つも連なった屏風の面の、一つの面を指して「扇(せん)」と呼びます。扇は向かって右側から左に向かって、第一扇、第二扇と数えます。折れ曲がった扇の数によって、屏風の形状は「二曲(きょく)」「四曲」「六曲」などと数えます。
また左右で一組になった屏風は「双(そう)」と数えます。対になっていない片割れだけのものは「隻(せき)」と数えます。六曲屏風が左右で対になっていれば「六曲一双(ろっきょくいっそう)」です。向かって右側は「右隻(うせき)」、左側は「左隻(させき)」と呼びます。

実際の例に沿って見てゆきましょう。上の写真の左側の図版は、菱田春草(ひしだ・しゅんそう)の「落葉」という作品です。画面は真ん中で二つに折れ曲がっており、扇(せん)の数は二つです。対になる画面も無いので、これは「二曲一隻(にきょくいっせき)」です。
また右側の図版、山元春挙(やまもと・しゅんきょ)の「深山雪霽鹿(しんざんせっさいろく)図」は、4つの扇が横に連なっています。やはり対になる画面が無いので、これは「四曲一隻(よんきょくいっせき)」となります。四つの扇は向かって右側から、第一扇、第二扇、第三扇、第四扇と呼びます。

左右で対になる一双(いっそう)屏風もご紹介しましょう。上の写真は小倉遊亀(おぐら・ゆき)の「磨針峠(すりはりとうげ)」という作品で、二曲屏風が二つ並ぶことで成り立っています。二曲屏風が左右二隻なので、これは「二曲一双」です。四つの扇は向かって右側から、右隻第一扇、右隻第二扇、左隻第一扇、左隻第二扇と呼びます。
屏風にはよく、その隅に落款(らっかん)が記されます。落款は書画を制作した際に制作時や記名を書き込んだもので、いわゆる西洋画のサインと同じです。一双屏風の場合、落款は原則として右隻のいちばん右端と左隻のいちばん左端に記されます。逆に言えば落款の位置で、屏風のどちらが右隻でどちらが左隻かが判明するわけです。

屏風の中で最もポピュラーな形が、六曲屏風です。今回の「襖と屏風」展に出品されている作品も、半数が六曲屏風です。六曲屏風には上の作品、茨木杉風(いばらぎ・さんぷう)の「近江八景図」のような、対になっていない六曲一隻のものもありますが、左右で対になる六曲一双のスタイルを取ることが多いようです。

上の図版は野村文挙(のむら・ぶんきょ)の「嵐山・高尾(あらしやま・たかお)図」ですが、右隻が桜の花が咲く春の嵐山を、左隻が紅葉が真っ盛りの秋の高尾という、京都の二大名所を描くことでうまく対の画面を作っています。このように一双屏風には、右隻と左隻で違う画面を描きながら、互いに対の関係となっているものがよく見られます。下の写真、右隻に龍の絵を、左隻に虎の絵を配して龍虎並び立つ様子を描いた岸連山(きし・れんざん)の「龍虎図」などがその好例です。

今回は屏風の数え方についての解説をいたしました。次回は屏風絵の画面の繋がりについてご紹介する予定です。


『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』
◆会 期:2011年 2月19日(土)−4月10日(日)
◆休館日:毎週月曜日 ただし3月21日の祝日は開館。 翌3月22日(火)は休館
◆観覧料:一般 750円(550円) 高大生 500円(400円) 小中生 300円(250円))
      ( )内は前売および20名以上の団体料金
◆出品予定作品:江戸時代から昭和期までの、襖、屏風装による日本画作品約25件

★毎日、午後1時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。3月6日(日)は特別に、本展の担当学芸員によるギャラリートークが開かれます(午後1時から)。