美術館の歩みを展覧会で振り返る(昭和60(1985)年)


『美術館の歩みを展覧会で振り返る』の第2回は、開館2年目の昭和60(1985)年度です。開館時のドタバタ慌ただしい状況がようやく治まって、余裕を持って展覧会に取り組めるようになったのがこの頃です。この年度の特徴は、年間の企画展開催回数がトップの10本であること。その後は年間5〜6本の開催が標準になったことを考えると信じ難いことですが、これは収蔵品の認知を図り常設展の集客に繋げることを目的として、3本の「新収蔵品のお披露目展」を開催したためです。



006
特別展 湖国が生んだ京都画壇の巨匠 山元春挙
1985年04月20日─1985年05月26日  開催日数:32日  観覧者数:15,086人
春のリゾートシーズン到来とともに開催したこの年度最初の企画展は、滋賀県大津市出身の京都画壇の巨匠、山元春挙(やまもと・しゅんきょ)の大規模な回顧展でした。春挙は滋賀県ゆかりの日本画家の筆頭であり、当館が皆さまにその存在をアピールしたい作家の一人です。実際、その後も平成12(2000)年度と平成15(2003)年度の2回、春挙の企画展を開催しています。この年度に実施した展覧会は宮内庁をはじめとして各地の美術館から借用した代表作54点に、下絵・写生等の諸資料30点を展示したもので、春挙を紹介する展覧会としてはこれまでにない本格的なものでした。
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007
新収蔵品展
−滋賀を中心とした近代日本画+ロバ−ト・ラウシェンバ−グ−
1985年06月01日─1985年06月23日  開催日数:20日  観覧者数:1,852人
当館が新しく収蔵した作品をお披露目するミニ企画展の第1弾で、当館の2つある企画展示室を「日本画・郷土美術部門」と「現代美術部門」の両者で分け合って、作品55点を展示いたしました。前半は幕末の中島来章(なかじま・らいしょう)から昭和の沢宏靱(さわ・こうじん)にいたる9作家の作品21点で滋賀における近代日本画の流れの一側面をご紹介いたしました。野村文挙(のむら・ぶんきょ)の華麗な屏風絵「嵐山・高尾図」などが見どころでした。後半は戦後アメリカのネオ・ダダ運動を代表する作家ロバート・ラウシェンバーグに焦点を当て、1960年代のリトグラフ(石版画)から80年代に滋賀県信楽で制作した陶器による作品まで、22点の作品を展示いたしました。特に陶器による巨大な作品「ダート・シュライン(北)」と「ゲート(北)」の2点は、あまりの巨大さと展示作業の複雑さのために、その後平成25(2013)年度の「ポップの目」展まで、当館における展示の機会に恵まれなかった貴重な作品でした。
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008
親と子で見るフランス名画展
1985年06月29日─1985年07月21日  開催日数:20日  観覧者数:12,159人
タイトルが示す通り、親と子が名画を前に語り合い、楽しみながらフランス絵画の流れを理解できるように企画されたもので、美術館連絡協議会のもとに公立を中心とした国内の美術館が集い、共同で開催した展覧会です。国内のコレクションを中心に、18世紀ロココから20世紀初頭エコール・ド・パリに至る59作家99点の作品を、詳しい解説パネルとともに紹介いたしました。梅雨時でしかも会期も短かったのですが、1日平均600人を超える来館者を迎えて賑わいました。
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009
茨木杉風展 −スケッチを中心として−
1985年08月03日─1985年09月01日  開催日数:26日  観覧者数:3,068人
夏の企画展は滋賀県近江八幡市出身の日本画家で、南画風の自由で軽妙洒脱な表現が魅力的な水墨画家・茨木杉風(いばらき・さんぷう)の回顧展でした。初期から晩年に至るまでの作品60点に加え、本展では滋賀や京都、そしてスケッチ旅行に赴いた東南アジアやヨーロッパなど各地の風景や風俗を描いたスケッチ約300点を合わせて展観し、本画とは違った杉風の一面をも紹介いたしました。
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010
イブ・クライン展
1985年09月07日─1985年10月06日  開催日数:26日  観覧者数:9,063人
この年度の現代美術展は、ヌーヴォー・レアリスムを代表するフランスの現代作家・イブ・クライン(1928-62)の、わが国で初めての本格的な回顧展でした。“限りなく精神的な”ものを表現するために、自ら発明したインターナショナル・クライン・ブルーを用いて表現した、モノクローム(単色)絵画や海綿を用いた作品、火を用いて描いた作品、人体測定プリント(女性の身体に絵具を塗って人拓を取ったもの)など、型破りでユニークな作品群を多数展示いたしました。展覧会チラシがクラインの発行した新聞になっていたのもユニークでした。
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011
特別陣列 小倉遊亀
少将滋幹の母挿画展−挿画と口絵−
1985年10月10日─1985年10月20日  開催日数:10日  観覧者数:1,659人
新収蔵品のお披露目展の第2弾で、開館記念展でも取り上げた滋賀県大津市出身の日本画の巨匠・小倉遊亀(おぐら・ゆき)のユニークな作品「少将滋幹(しげもと)の母」全作品を、企画展示室のうち1室を使って展示したものです。「少将滋幹の母」は文豪・谷崎潤一郎毎日新聞に連載した、王朝時代を題材とした小説で、その新聞紙面を毎日飾った挿絵を描いたのが、小倉遊亀でした。本展では口絵1点、挿絵84点、カット13点を一堂に並べ、ストーリーの概略とともにその耽美的で古典的な美を堪能できるようになっていました。
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012
1908年−ピカソのアトリエで アンリ・ルソーの夜会
1985年10月25日─1985年11月14日  開催日数:18日  観覧者数:9,726人
「親と子で見る世界の名画展」に続く泰西名画の展覧会ですが、こちらはフランスの素朴派の巨匠・アンリ・ルソーを紹介するだけではなく、彼を鼓舞するために詩人アポルネールやピカソらアパート「洗濯船」に寄宿していた若い芸術家たちが開いた夜会を再現し、その夜会に関連した画家の作品を展示するというユニークなものでした。夜会に出席した画家12人の作品113点、彼らに影響を与えたアフリカ黒人彫刻8点、その他アポリネール自筆の詩や洗濯船の模型等が展示されました。
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013
ポップ・アート版画展
1985年11月29日─1985年12月22日  開催日数:21日  観覧者数:2,498人
新収蔵品のお披露目展の第3弾は、アメリカン・ポップ・アートを代表する4人の作家―アンディ・ウォーホル、ジム・ダイン、ロイ・リキテンスタイン、クレス・オルデンバーグ―に焦点を当て、版画作品22点(兵庫県立近代美術館所蔵の作品3点を含む)を展示するというものでした。これらは版画ではありますが、質・量ともに当館の核となるコレクションのひとつです。現代美術の中でもひときわお洒落なイメージを漂わせているポップ・アートの作品展ということで、若い人々を中心に注目を集めました。
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014
パウル・クレー展 1933-1940
1986年01月05日─1986年02月09日  開催日数:31日  観覧者数:8,157人
日本でも人気の高いパウル・クレーの芸術を紹介する展覧会ですが、クレー研究者オットー・ヴェルクマイスター教授の企画により晩期のクレーに焦点を当てたユニークなもので、彩色画42点と6つのコンセプトに分類した素描86点を通して、ナチスの迫害と病魔に苦しめられた巨匠晩年の芸術を紹介いたしました。なお日本でh初期のクレーの絵画傾向を紹介するために、特別に1933年以前の作品20点も加えて展示いたしました。
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015
シガ・アニュアル '86 多義的な表面
1986年02月18日─1986年03月23日  開催日数:30日  観覧者数:2,626人
「シガ・アニュアル」の第1回展です。シガ・アニュアルは、関西を中心に活躍中の若手作家の作品を通してわが国の現代美術の多様な状況を紹介する、自主企画による年次展で、今回は「多義的な表面」というテーマに沿って4名の平面作家―五十嵐彰雄、根岸芳郎、山本富章、横溝秀実―の作43点をを、展示室を4つのコーナーに隔て、4本のミニ企画展が並列しているかたちを取ってご紹介いたしました。展覧会ポスターとチラシが長方形ではなく、円形であったのもユニークでした。
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