秋の常設展「再興院展の輝き」の見どころ紹介(1)

本日9月6日(火)から始まった秋の常設展示「再興院展の輝き」は、当館が所蔵する日本画作品の中でも特に中核となっている、優れた作品がたくさん並ぶ展示です。そこで今回から数回に分けて、本展示の見どころを順にご紹介してゆきます。

本展示は大正3(1914)年に横山大観(よこやま・たいかん)らによって再興された「再興院展」の、出品作品や主要画家の作品が中心になっています。日本美術院は明治31(1898)年に学者・岡倉天心(おかくら・てんしん)によって組織された、わが国初の在野の美術団体です。横山大観は言うまでもなく、日本美術院草創期からの主要メンバーであり、また明治・大正・昭和に渡って近代の日本画壇をリードし続けた巨匠です。天心の死後解散状態にあった院展を再興した立役者でもあるこの巨匠の作品は、本展示では2点ご覧いただけます。

そのうちの一点は、琵琶湖に取材した大正7(1918)年の作品「鳰之浦(におのうら)絵巻」。幅10メートルにも及ぶ水墨画の大作です(写真で示したのはそのうちの一部です)。鳰之浦とは琵琶湖の別名で、鳰(にお)とは滋賀県の県鳥でもあるカイツブリのことです。琵琶湖の湖面から湖岸を南から北に向かって見渡したパノラマ風景になっており、長命寺山、沖の白石、竹生島といった名所が次々と現れます。水墨画を得意とした大観の水墨技法が余すところなく駆使された名作画巻で、本展示の見どころのひとつとなっています。

横山大観のもう一点の作品は、うって変わってカラフルな作品。大正8(1919)年作の「洛中洛外雨十題」の中の一点「八幡緑雨(やわたりょくう)」です。現在の京都府八幡市近辺の竹林に取材した、鮮やかな緑が印象的な爽やかな作品です。絵具のにじみの効果を生かした雨の描写、線を用いず色彩だけで描く没骨(もっこつ)描法を駆使した笹の葉の柔らかな表現などが、初夏から梅雨にかけての新緑の風情と湿潤な日本の空気を見事に表現しています。

明治時代の院展草創期に大観とともに活躍した仲間たちのうち、菱田春草(ひしだ・しゅんそう)は院展再興を待たずして夭折しているため本展示に作品は出ておりませんが、代わりに仲間の木村武山(きむら・ぶざん)の作品「瀑布図」をご覧いただけます。水煙をもうもうと上げて流れ落ちる滝を描いた爽やかな印象の作品ですが、実は水にあたる部分には絵具をまったく置かず、絵絹の白い地をそのまま生かすという、日本画ならではの技法(西洋画であれば白い絵具で描くはずです)を用いた、ユニークな作品だと言えましょう。


再興院展には大観が各地を奔走して集めた、新世代の若い画家たちがたくさん集いました。彼らについては次回まとめてご紹介いたしますが、今回は彼ら若手画家の中でも特に傑出した才能を持ち、若手画家たちのリーダー格でもあった夭折の天才、速水御舟(はやみ・ぎょしゅう)の作品を紹介いたします。御舟は1894(明治27)年に東京・浅草に生まれ、最初松本楓湖(まつもと・ふうこ)に師事し、その後は同門のもう一人の天才・今村紫紅(いまむら・しこう)の後を追って若手画家たちのグループ「紅児会」に参加。紅児会が解散した後は院展に移って多くの名作を描きましたが、1935(昭和10)年に40歳の若さで世を去りました。

大正期の御舟は西洋画の写実主義の影響を強く受け、徹底した細密描写を日本画の世界に導入して、その鬼気迫る表現で世人のど肝を抜きました。本展示では彼の細密描写がもっとも顕著に現れた時期の大作「菊花図」1921(大正10)年をご覧いただけます。盛りを少し過ぎた菊の群れが、これでもかと言わんばかりの精緻な表現で描き出され、見る者を圧倒します。

速水御舟の作品ではもう一点、細密描写に琳派風の装飾的表現を組み合わせたユニークな作品、1922(大正11)年の「遊魚図」を展示いたします。この作品、清流の中を泳ぐ若鮎の姿はウロコの一枚一枚まで精緻に描く細密描写で描かれているのですが、川底の玉石は絵具を水でにじませて描く、琳派風の「たらしこみ技法」によって描かれています。また水面を上から覗き込むように描いた構図でありながら、鮎の姿は真横から見た姿で描かれており、これは伝統的な日本画によくある「視点の合成」であると言えます。このように西洋画的な細密描写にこだわりながらも、日本画の伝統的な画法を意識した装飾的表現も導入し、両者の融合を試みているところに本作の面白さがあります。

次回は、再興院展を舞台に活躍した若手作家たちの作品をご紹介いたします。


常設展示「再興院展の輝き」 9月6日(火)−10月30日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円)、高大生 250円(200円)、小中生 無料
( )内は20名以上の団体料金。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※現代美術の展示「戦後アメリカ美術の軌跡」(9月6日(火)−12月18日(日))も併せてご覧いただけます。