「夏休み子ども美術館」の見どころ紹介 その2

今月末の6月29日(火)から始まる「夏休み子ども美術館 アートのぶつブツえん」。その展示作品の中から目玉を紹介するシリーズの、第2回です。今回は日本画の中の動物に注目してみましょう。

上の写真は京都画壇の画家・杉本哲郎の「マハヴィーラ」。連作「世界十大宗教」のひとつで、インドに多くの信者を持つジャイナ教の教祖、マハヴィーラを描いた作品です。ジャイナ教は徹底した『不殺』の教えを持っていることで知られる宗教ですが、そのためにマハヴィーラの元には彼を慕って多くの鳥獣たちが集まりました。

作品の下部を拡大したものが上の写真です。ゾウやトラなど大型の動物から、アリやドジョウのような小動物にいたるまで、バラエティに富んだ生き物の姿が描かれています。京都の画家は円山四条派の伝統のもと、見たままを忠実に描く「写生」を重視する画家が多く、動物の姿はまるで動物図鑑のように精密に描かれています。

上の写真はやはり京都画壇の日本画家、今尾景年の佐作品「芦水禽図」です。琵琶湖に住む水鳥たちの姿がやはり図鑑のように精密に、しかも餌をあさる姿や水面に降りる際のポーズにいたるまで、生態を生き生きととらえて描いてあります。画家はよほど水鳥のことをよく観察し、写生を繰り返してこの絵の構想を練ったのでしょう。芸術作品は時として、図鑑以上にその生き物のことをよく伝えてくれることがあります。

さらにユニークなのが上の写真。近代京都画壇の父と呼ばれる幸野楳嶺が描いた「群魚図」の一部です。透けて見える海の中に、タイにフグ、エイ、トビウオ、アンコウなど、さまざまな魚が描かれています。果たして作者の幸野楳嶺は、実際に海の中で泳いでいるこれらの魚を見たのでしょうか?
いいえ。この絵に描かれているのは京都に住む人々の食卓を飾る、美味しい魚ばかり。おそらくこの作品、魚屋さんの店頭に並んでいる魚をスケッチしたうえで、海の中を泳いでいるように合成して描いたものなのでしょう。リアリティという点ではなんとも奇妙な作品ですが、明治初期の人々がどんな魚を食べていたのかがわかる、興味深い作品だとも言えます。

今回の展覧会ではこのように、様々な描き方で表現された生き物たちの姿を比較しながら鑑賞することができます。獣が好きな人も、鳥が好きな人も、そして魚が好きな人も、ぜひお好みの作品を探し出して、そのユニークな表現を楽しんで下さいね。

「夏休み子ども美術館 アートのぶつブツえん」
会期:6月29日(火)−8月27日(日)
観覧料:一般 450円(360円)、高大生 250円(200円)、小中生 無料
    ( )内は20名以上の団体料金。企画展の観覧券で常設展も観覧できます。