館蔵品のご紹介(1) −お正月にふさわしい作品−

美術館が冬期休館中(2月4日(金)まで)のこのブログでは、今回から数回に分けて、館蔵品の中から興味深いものをテーマ別にご紹介してゆくことにします。その第1回は『お正月にふさわしい作品』です。

先日の「館長からの年賀状」にも登場した中島来章(なかじま・らいしょう)の「旭波図(きょくはず)」(上)は、文字通り波の上に浮かぶ初日を描いた作品。シンプルな構成ですが朝日の雄渾さと、果てしない海の拡がりが見事に描写されています。お正月に床の間に飾る絵として、これ以上のものはないでしょう。作者の中島来章は現在の甲賀市信楽町生まれの日本画家で、幕末の円山派を代表する存在です。

上は彦根出身の近代日本画の先駆者・岸竹堂(きし・ちくどう)の「三社図(さんしゃず)」(六曲一双のうち左隻)です。この作品は一見ただの風景画に見えますが、実は伊勢神宮、奈良の春日大社京都府八幡市石清水八幡宮という、三つの有名な神社のシンボルを描いた、一種の吉祥画なのです。写真図版に描かれている朝日は、天照大神を祀っている伊勢神宮の象徴、その左側を飛ぶ鳩は、古くから石清水八幡宮の使いとされている動物です。そしてこの写真図版にはない右隻には、春日大社の使いである鹿の群れが描かれています。この作品もお正月にふさわしい、非常におめでたい図柄ですね。

やはりおめでたい図柄の作品なのが、日本美術院で活躍した京都の文人画家、冨田溪仙(とみた・けいせん)の作品「雲上鶴図(うんじょうつるず)」(上)です。大小さまざまな円を描いて優雅に天を舞う無数の鶴の群れ。それを画面の両側からまとめる松の木。いずれも慶事のシンボルですが、よく見ると鶴の群れは地上から天を仰ぎ見たように描かれており、一方で松の木は真横から見た姿で描かれていて、二種類の画面を合成した風変わりなものとなっています。鶴の飛ぶ姿もどこか現実離れした姿であり、これは画家が実際に見た風景ではなく、一種の吉祥画としてあくまで想像で描いたものであることがわかります。

同じく瑞祥のシンボル「松竹梅」を描いた作品が、上の野添平米(のぞえ・へいべい)「松竹梅小禽図(しょうちくばいしょうきんず)」です。と言っても松の木はまだ苗木。竹は地面に落ちた笹の葉だけで描かれるという、ちょっと凝った構成になっています。画面に動きを出すためか、小鳥のシジュウカラが描かれて伝統的な花鳥画の体裁をなしています。背景は琳派を思わせる金地で、写実よりも装飾性を重んじる日本画の伝統を強く感じさせます。なお作者の野添平米は草津市の出身で、昭和の京都画壇で活躍した日本画家です。

最後に、初日の出かどうかはわかりませんが、朝日を象徴的に描いたお正月にふさわしい作品をご紹介します。上の沢宏靱(さわ・こうじん)「近江富士は、琵琶湖の西岸、おそらく比叡山の方から、近江富士の名で親しまれてきた三上山(野洲市)と、その肩から昇る朝日をダイナミックに描いた作品です。山の姿はシルエットで表わされ、湖岸に立ち並んでいるはずの人家もすべて省略されて、非常にシンプルな画面構成となっています。人間の姿や営みを画面にまったく描かないことによって、はるか悠久の古代から少しも変わらすに繰り返されてきた、堂々とした大自然のサイクルが見事に表現されています。作者の沢宏靱は長浜市出身の日本画家で、大自然を象徴的に捉えたシンプルで雄大な作品を数多く描いたことで知られています。

これらの館蔵品は常設展示室1(日本画・郷土美術部門)において順次公開される予定です。ご期待下さい。