「日本絵画 組み合わせの美」の見どころ紹介(3)


館蔵品の中から、「一双」「一対」「揃い」など複数の点数がセットになり「組み合わせ」て鑑賞する作品ばかりを集めたユニークな企画展「日本絵画  組み合わせの美」の見どころを紹介するシリーズの、第3回です。今回は第3のコーナー「「『揃い』の愉悦─セットの美」に展示されている作品群を取り上げます。このコーナーでは2点以上の複数の作品がセットになってひとつの作品を構成しているような作品を紹介しています。


複数の作品が1セットになるものと言えば、最も代表的なのが八景物をはじめとする名所絵です。琵琶湖南部の8つの名所をセットにした「近江八景」は数ある名所絵の中でも特に有名なもので、浮世絵師の歌川広重(うたがわ・ひろしげ)をはじめとして多くの画家たちによって描かれてきました。近江八景はもともと、中国湖南省・洞庭(どうてい)湖の付近の景勝地を描いた「瀟湘(しょうしょう)八景」という伝統的な中国絵画の画題を、琵琶湖南部の名所に当てはめて作ったものです。近江八景以外にも瀟湘八景をモデルにして、広重が描いた「隅田川八景」「金沢八景」「江戸近郊八景」など多くの八景が作られましたが、近江八景ほど人口に膾炙(かいしゃ)され、親しまれたものは他にありません。

近江八景図には第1のコーナーで紹介した塩川文麟(しおかわ・ぶんりん)の「近江八景図」(写真上)のように、八景すべてがひとつに繋がって描かれたパノラマ状のものも存在しますが、八景それぞれを別々の画面に描き、8点で1セットになるよう揃いで描かれた近江八景もまたポピュラーな形式です。

野村文挙(のむら・ぶんきょ)の「近江八景図」(写真上)はスタンダードな8点組形式を取ったもので、伝統的な四条派の画風を踏まえた詩情豊かな雰囲気、空気遠近法など西洋画の要素もかい間見せるモダンな構図、そして画面ごとに見せる日本の季節感など、親しみやすいスタンダードな近江八景図の代表と言えるでしょう。

一方で美人画家として知られる伊東深水(いとう・しんすい)が浮世絵に倣って木版画で作った「近江八景」(写真上)は、「唐崎夜雨」で知られる唐崎の松(上段左から3点目)に雨が降っていなかったり、「瀬田夕照」で知られる瀬田の唐橋(下段左から3点目)が夕焼け空ではなく雨が降っていたりと、伝統的な画題の約束を崩してオリジナルな八景を生み出そうとしている意欲的な作品です。根本からアップで捉えた唐崎の松の表現や、琵琶湖の沖から湖面ギリギリの視線で街道沿いの松並木を捉えた「粟津(あわづ)」(下段左端)など、構図的にもさまざまな冒険を行なっています。

名所絵とともに「揃い」の絵画の代表選手と言えるのが、四季それぞれの美をセットにした四季絵、あるいは12ヶ月それぞれの行事や自然の姿を12枚セットで描いた「月次絵(つきなみえ)」です。六曲一双屏風の12枚の扇に、12ヶ月それぞれの絵を押絵貼りにした十二ヶ月図屏風は、月次絵の代表的なものです。上の写真は中島来章(なかじま・らいしょう)の「十二ヶ月図」で、屏風の右端から左に向かって1月から12月までの自然が、花に小動物を配する花鳥画の形式で描かれています。旧暦の時代に描かれた作品なので現代の季節感とは少しずれている部分もあります(画面上の1月はだいたい現代の2月に当たります)が、日本の四季の変化の美しさが余すところ無く描き出されています。

上の作品、小茂田青樹(おもだ・せいじゅ)の「四季草花図」は、もともと六曲二双の4画面に春夏秋冬の季節を描いたものですが、いつしか春と秋、夏と冬が離れ離れになってしまい、当館はそのうち夏季と冬季だけを所蔵しています。夏期にはアサガオとハギの花が、冬季には真っ赤なナンテンの実と雪が描かれ、幻想的なムードの中に画家の自然観察眼の巧みさを覗かせるダイナミックな大作です。なお画面には金と銀の砂子(すなご)が全体に散らされているのですが、現在は銀砂子が酸化して黒く変色しており、画家が描いた当時とは少し印象が異なったものになっています。

上の作品は小倉遊亀(おぐら・ゆき)の「花三題」です。遊亀90歳の時の作品ですが、彼女の晩年の静物画にはこの作品のように、3点で1セットになったものが多数存在します。高齢になり大画面の作品を描くことが困難になってきたという事情もあるのですが、それ以上に遊亀にとってはこれら三点組の静物画は、仏画の「三幅対(さんぷくつい)」に見立てたものという特別の意味を持っていたのです。3枚の画面が、中央に御本尊、両側に脇侍の仏として配されています。これこそ、生きとし生けるものみな仏が宿っているという小倉遊亀晩年の哲学が導き出した、独特の形式なのです。


今回ご紹介した第3のコーナーではこのように、2点以上の複数の作品がセットになってひとつの作品を構成する『揃い』の作品の魅力を味わっていただけます。こうした日本絵画特有の形式を通して、日本絵画が持つ魅力に皆さんも気付いていただければ幸いです。


企画展示『日本絵画 組み合わせの美』
会期:4月14日(土)─6月3日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし4月30日(月)は開館、翌5月1日(火)は休館)
観覧料:一般750円(550円)・高大生500円(400円)・小中生300円(250円)
※( )内は前売及び20名以上の団体料金