春の常設展示のご案内

当館の常設展示室は4月1日(火)から新しい内容に模様替えいたします。なお観覧料金が改定されますのでご注意ください。


展示室1『山元春挙と早苗会』 4月1日(火)−5月18日(日)
常設展示室1(日本画・郷土美術部門)ではこの春から初夏にかけて、大津市の出身で明治から昭和初期にかけての京都画壇を、竹内栖鳳(たけうち・せいほう)とともに支えた巨匠、山元春挙(やまもと・しゅんきょ)と、彼が主宰した画塾「早苗会」に集った日本画家たちの作品を特集して展示いたします。
山元春挙は明治4(1871)年に滋賀県膳所(現大津市)に生まれ、京都画壇の野村文挙(のむら・ぶんきょ)、次いで森寛斎(もり・かんさい)に師事し、伝統的な円山四条派の画法を学びます。早くも明治20年代から菊池芳文(きくち・ほうぶん)、竹内栖鳳らと並んで近代京都画壇の旗手と目され、国内外の展覧会に大作を続々発表して地歩を固めてゆきます。明治42年に早苗会を開設して以後は後進の育成にも力を注ぎ、昭和8(1933)年に病没するまで、京都画壇の重鎮として活躍しました。
春挙は、伝統的な円山四条派の徹底した写生精神を引き継ぎながら、人間を圧倒する過酷な大自然に畏敬の念を向ける西洋のロマン主義的精神と、自ら日本アルプスの高山に登り、また絵画制作に当時まだ目新しかった写真を活用するなどの科学実証主義精神を併せ持ち、従来の日本画とは一線を画する雄渾で迫力に満ちた風景画を数多く描きました。
彼の画塾「早苗会」からも、川村曼舟(かわむら・まんしゅう)、庄田鶴友(しょうだ・かくゆう)、疋田春湖(ひきた・しゅんこ)、三宅凰白(みやけ・こうはく)、柴田晩葉(しばた・ばんよう)、斉内一秀(さいうち・いっしゅう)といった優れた画家たちが輩出し、大正から昭和期の京都画壇を彩りました。
本展示では「法塵一掃」「高嶽爽気図」「山村密雪図」「雪松図」など春挙の代表作10点をはじめ、計19点の作品を展示いたします。

山元春挙「初夏白糸之滝図」

山元春挙「山村密雪図」

▲三宅凰白「琉歌」

▲斎内一秀「六月の頃」


なお併設の小倉遊亀コーナーも併せて展示替えとなります。展示作品は、「受洗を謳う」「細雪 挿絵」「ゼラニウム」「百日草」「蕪」「花屑」「夏の客」「姉妹」「兄妹」「菩薩」「花菖蒲」「古陶と青柿・白桃・マンゴーなど」「紅白紫黄」の、計13点です。


展示室2『立体とオブジェ』 4月1日(土)−6月29日(日)
常設展示室2(現代美術部門)では「立体とオブジェ」と題して、従来の彫刻の枠組みを越えて斬新な表現を生み出している、現代の立体造形作品21点を展示いたします。
19世紀までの近代彫刻の大成者がオーギュスト・ロダンなら、20世紀の現代彫刻の創始者ルーマニア出身のコンスタンティンブランクーシであり、その精神を受け継いだ巨匠は一時期ブランクーシの弟子でもあった、日系アメリカ人のイサム・ノグチだと言えましょう。「幼年時代」は素材である香川県庵治産みかげ石の持ち味を存分に生かした、シンプルで温かみのある作品です。このように現代彫刻には「素材感」を前面に押し出した作品が多く、例えば滋賀県在住の陶芸家・星野曉(ほしの・さとる)による、土の板を鷲掴みにして指と土が格闘した痕跡を見せる「背後の輪郭IV」や、重力で自然にたわむフェルト布を素材にしたロバート・モリスの「無題」も、素材の感触が作品のポイントとなっています。
逆に、琵琶湖をテーマにしたミニチュアの環境彫刻を作りつづけている福岡道雄の「釣りをする2」は、素材感を背景に退けて、仮想的な風景のイメージを追求したものです。一方、絵具を染み込ませた海綿で海底や宇宙を連想させるイヴ・クラインの神秘的な作品「RE42」や、粗い麻布を樹脂で固めて、頭部と両腕が無い不気味な等身大の人体像をずらりと並べるマグダレーナ・アバカノヴィッチの「群衆IV」などは「素材感」と「イメージ」を見事に両立させた作品と言えるでしょう。
現代彫刻のもうひとつの特質に「周囲の環境の取り込み」があります。滋賀県出身で環境をテーマにした抽象的な作品を作り続けている深田充夫(ふかだ・みつお)の作品「オウ-5」(オウはさんずいへんに翁)では、ピカピカに磨き上げた作品の表面に映る周囲の風景も作品の一部として機能しています。同一の型からとった等身大の人体像を10体並べた今井祝雄(いまい・のりお)の「ヴォワイヤン」(見る人、の意)も、見る─見られるの関係によって結果的に観客を含めた周囲の空間を取り込んでしまう作品です。
20世紀の立体造形を語る上で、欠かすことができないもうひとつの概念が、既製品や自然物、廃品などを巧みに利用して作る《オブジェ(物体の意)》です。オブジェという概念の創始者のひとりとされるマルセル・デュシャンの「ヴァリーズ」(旅行かばん)は、彼の過去作品のミニチュアが多数収められたカタログのような作品です。ジョゼフ・コーネルが古い木箱に彼の思い入れのある品々を小宇宙のように収めた「シャボン玉セット」や、ロバート・ラウシェンバーグが既製品のドアに段ボールを貼り付けて鳥の姿を模したオブジェにした「カードバード・ドア」、アルマンがヴァイオリンをケースごと輪切りにしてコンクリート詰めにした「ビショップの悲劇」などは、20世紀のオブジェ芸術の代表的なものと言えるでしょう。一方で、一見既製品の冷蔵庫か洋服を掛けたハンガーのように見えて実は手作りの絵画であるという金村仁(かなむら・ひとし)の「絵になる冷蔵庫」や、アンディ・ウォーホルの名作「192枚の1ドル紙幣」を蟻の巣観察箱と融合させた柳幸典(やなぎ・ゆきのり)の作品は、オブジェのあり方を逆手に取ったユニークな作品です。
本展ではこれらの他、ドナルド・ジャッド、ソル・ルウィットらミニマル・アート(最小限芸術)の作品や、ジョゼフ・コスース、西村陽平(にしむら・ようへい)、若林奮(わかばやし・いさむ)らによるコンセプチュアル・アート(概念芸術)の作品など、現代の立体造形の多様な状況を示す作品を多数展示しています。

イサム・ノグチ幼年時代

▲深田充夫「オウ-5」(オウはさんずいへんに翁)

マルセル・デュシャン「ヴァリーズ」

▲今井祝雄「ヴォワイヤン」(10点組)


常設展示『山元春挙と早苗会』4月1日(火)−5月18日(日)
     『立体とオブジェ』 4月1日(火)−6月29日(日)
観覧料(共通):一般500円(400円))、高大生 300円(240円)、小中生 無料 ( )内は20名以上の団体料金。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。