「夏休み子ども美術館」の見どころ紹介 その1


今月末の6月29日(火)から始まる夏期常設展示「夏休み子ども美術館 アートのぶつブツえん」は、毎年恒例、子どもたちや初心者を対象とした美術入門編の展示です。楽しいクイズやワークシート、ゲームなどの活用によって、誰でも楽しみながら美術の世界に親しめるよう工夫しています。

展示作品は、当館の収蔵品(日本画・郷土美術と現代美術の作品)の中からテーマに沿って選りすぐった、動物や植物をモチーフにした作品ばかり約70点。このブログでは今回から数回に分けて、本展示の目玉作品を紹介してゆこうと思います。

「動物や植物をモチーフにした作品」と言っても、現代美術の作品はいったいどこが動物なのか、植物なのかわからないような、ヘンな作品ばかり。でも作品をよく観察してみると、元の生き物のイメージがうっすらと残っているものもあります。

例えば上の彫刻作品は、抽象彫刻の父と呼ばれるコンスタンティンブランクーシの「空間の鳥」。一見、プロペラの羽根か太った刀のような形の金色の物体が、天を指して立っているだけのように見える作品ですが、流線型の形がとても美しく、大気圏を貫いて富んで行くロケットや、水の中を素早く泳ぐイルカなどとも共通したスピード感も感じさせます。実はこの作品の形、空を飛ぶ鳥の姿から余分な要素をすべて取り除いた末に残ったもので、鳥の「空を飛ぶ」という能力だけを具現化したものだとも言えます。そう言われてみれば何となく、天空の一点を目指して力強く上昇してゆく、神々しい鳥の姿が感じられるような気がしますね。

上の作品は菅井汲の「まるい森」という抽象画です。円や直線を組み合わせ、原色で塗っただけのシンプルな作品です。どこにも木のかたちはなく、森の情景も描かれてはいません。ただうねうねと皴が重なった円形の緑色が、なんとなく「まるい森」というタイトルに通じるかな?と思える程度です。でもいったん「まるい森」に見えてしまうと、もう「まるい森」にしか見えなくなります。作者の卓越した意匠力が、「まるい森」というイメージを的確に捉え、シンプルで抽象的なかたちに落とし込んでいるのです。
ところでこの作品、上下が逆になると全然別のタイトルになってしまいます(そういう作品が本作品とは別に存在します)。では、いったい何というタイトルに変わるでしょうか? 答えはこの記事の一番下にあります。

上の作品は、ロバート・ラウシェンバーグ段ボール箱の切れ端などをドアに貼り付けて作ったもの。ゴミが積み上げられただけのようにしか見えませんが、実はこれも、ある生き物の姿を表わしたものなのです。タイトルは「カードバード・ドア」。カードボード(段ボール)で作ったバード(鳥)だというのですが、あなたには果たして、この作品が鳥に見えるでしょうか? ヒントを出しましょう。ドアノブを目、その横にあるかんぬきボルトを鳥のくちばし、そしてドアを上下に伸びた鳥の羽根に見立てればいいのです。

そう、上の模式図のように見ると、この作品はちゃんと鳥の姿に見えてきます。立体派の画家ジョルジュ・ブラックが描く鳥のイメージにも似ていますね。こんなふうに想像力をたくましくして、本展に展示された作品を眺めて下さい。作品の中に隠された様々なイメージが見つかったとたん、常識に囚われていたあなたの目からウロコが落ちて、世界を新鮮な目で見つめ直すことができるようになるかも知れませんよ。

「夏休み子ども美術館 アートのぶつブツえん」
会期:6月29日(火)−8月27日(日)
観覧料:一般 450円(360円)、高大生 250円(200円)、小中生 無料
    ( )内は20名以上の団体料金。企画展の観覧券で常設展も観覧できます。


※クイズの答え:「緑の太陽」