「色と墨のいざない−出光美術館コレクション展−」の見どころ紹介 その2


開催中の企画展「色と墨のいざない−出光美術館コレクション展−」の見どころに紹介するシリーズの、第2回です。今回は本展のテーマ「色と墨」のうち、「色」即ち、日本古来の画法である「やまと絵」の歴史について、もう少し詳しくお話しいたします。

「やまと絵」は中国の風景や人物を描く「唐絵(からえ)」に対する言葉で、鮮やかな色彩で日本の風物や、名所、十二ヶ月の行事などをテーマに描くところに特徴があります。また和歌に詠まれた情景を題材にしたものや、絵巻物というかたちで説話や物語文学を画題としたものが多いのも、大きな特徴となっています。

上の図版は室町時代に描かれた「北野天神縁起絵巻」の1シーンですが、右上から左下に向かう平行線で建物を描く「順勝手」や、細い輪郭線の内側を鮮やかな原色で塗る描き方などに、やまと絵の本来の描き方がよく現れています。

近世に入るとやまと絵は、画帖や扇面などに描かれた細密画としても発展しました。上の図版は扇面に描かれた「月次(つきなみ)風俗図」のうち揚弓のシーンです。当時の京都の人々の風俗や季節感などがよく表わされています。

室町から江戸にかけて、やまと絵は土佐派、住吉派といったやまと絵専門の画派を生み出し、水墨画系の狩野派と互いに競いつつ、影響を与えながら発展してゆきました。上の図版は土佐光信の筆になるとされてきた「源氏物語画帖」の1シーンです。やまと絵の基本である絵巻物の伝統に即しつつ、細密で優雅な完成された画風を見せています。こうした表現はやがて、室町から江戸時代にかけて成立する「洛中洛外(らくちゅうらくがい)図」(京都の市街の風景をパノラマ的に描いた大画面の風俗画)などに受け継がれてゆきます。

そして今度は、洛中洛外図に描かれた個々の場面が独立して、「歌舞伎図」「遊女図」「名所有楽図」などが成立し、こうした風俗画の伝統が、江戸時代中期に「浮世絵」に発展してゆくのです。
上の図版は江戸時代前期に描かれたとされる「遊女歌舞伎図貼付屏風」の一部です。舞台の上の女装の狂言師と、それを興奮した面持ちで見つめる群衆の陶酔した表情などに、当時の世相がよく表れています。

江戸時代初期のやまと絵を語る上で、欠かせない人物が岩佐又兵衛です。やまと絵に水墨画の画風を大胆に取り入れ、歴史上の高貴な人物を卑俗で現世的な人物像に仕立てた作品の数々には、彼の強烈な個性が溢れています。上の図版は重要美術品「在原業平図」。どこか艶めかしいポーズ、一片の澱みも無い描線、繊細なタッチで塗られた色彩など、岩佐又兵衛の技量の高さを示す優れた作品です。

岩佐又兵衛に限らず、江戸時代以降のやまと絵は、水墨画と互いに影響を与えつつ発展しました。けれども長い時間を経る間に類型化した表現がはびこり、次第にやまと絵の精神は形骸化してゆきます。そうした風潮を打ち破ろうと江戸末期に、平安鎌倉期のやまと絵最盛期の技法を復活させようとする絵師たちが表れました。冷泉為恭(れいぜいためちか)や田中訥言(とつげん)らをはじめとする彼ら「復古大和絵派」の活動は、幕末の勤王思想の隆盛とも関係があります。上の作品は冷泉為恭の「雪月花図」の一部山水に水墨画の表現を取り入れつつも、日本の伝統的な季節感が見事に捉えられた風俗画で、江戸末期のやまと絵の状況をよく伝えています。


「色と墨のいざない−出光美術館コレクション展−」
会期:9月11日(土)−10月11日(月・祝)
観覧料:一般 950円(750円))、高大生 650円(500円)、小中生 450円(350円)
    ( )内は前売および20名以上の団体料金。
企画展の観覧券で常設展「横山大観と仲間たち」「赤と黒」も観覧できます。