11月2日からの常設展示「琵琶湖逍遥」のご紹介

11月2日(火)から、常設展示室1(日本画・郷土美術部門)が新たに展示替えとなります。今度の展示「琵琶湖逍遥」はその名のとおり、琵琶湖を中心とした湖国滋賀を描いた風景画の秀作を集めて展示し、山紫水明に恵まれた滋賀県の風土を美術を通して見つめ直そうとするものです。どのような作品が出品されるのか、かいつまんでご紹介いたしましょう。

湖国近江を描いた風景画と言えば忘れてはならないのが、歌川広重の浮世絵などで全国的に知られた「近江八景」です。元は江戸時代の京都の文化人たちが、現在の中国の湖南省にある洞庭湖(どうていこ)周辺の景勝地を描いた「瀟湘(しょうしょう)八景」と呼ばれる画題を、日本の琵琶湖南部の風景に当てはめて作ったものだと言われています。
今回の展示では、岸竹堂(きし・ちくどう)、森川曽文(もりかわ・そぶん)、野村文挙(のむら・ぶんきょ)、川端玉章(かわばた・ぎょくしょう)、伊東深水(いとう・しんすい)、冨田溪仙(とみた・けいせん)という、明治から昭和にかけての6名の日本画家たちによる「近江八景図」が展示され、互いに比べながら鑑賞することができます。

上の写真は森川曽文が金屏風に水墨で描いた六曲一双の「近江八景」の、向かって右側の屏風(右隻)です。瀬田川にかかる瀬田の唐橋(瀬田夕照)、その右側の山の中腹に紫式部が月を見ながら源氏物語を執筆したと伝えられる名刹石山寺(石山秋月)、唐橋の向こうに近江富士と呼ばれる三上山と、矢橋(やばせ)の港に帰ってゆく帆掛船(矢橋帰帆)という、3つの風景が実景に基づいて描かれています。

一方、上の写真は浮世絵の系譜を引く美人画の大家・伊東深水(いとう・しんすい)が、浮世絵を意識しつつ木版画で仕上げた8点組の「近江八景」のうち、「粟津晴嵐(あわづのせいらん)」です。湖面から松並木を眺めるという大胆な構成、青い空と湖に白い雲と松の幹という明快な配色。そして画面に溢れる詩情。小品ながら巨匠・伊東深水の面目躍如たる作品です。
この2点以外の近江八景も、見どころ充分。ぜひお楽しみに。

近江八景以外にも、滋賀県内の様々な場所を画家たちが愛情込めて描いた作品が、多数展示されます。
上の写真は昭和から平成にかけて活躍した京都の日本画家・川島浩(かわしま・ひろし)の「野洲川」。川べりにヒガンバナが真っ赤に咲き誇る秋の野洲川とその向こうに輝く朝日を、スケール感たっぷりに捉えた勇壮で叙情的な作品です。

上は蒲生郡(現在の東近江市)出身の洋画家・野口謙蔵(のぐち・けんぞう)の作品「朝」。まだ夜が開け切らぬ夏の朝、アシの生い茂る水路に乗り出す一艘の舟を、まるで抽象画のような荒々しいタッチで描いた作品で、一見抑えた色調の中での陶酔的な色彩の乱舞が目を引く、ユニークな作品です。

上は長浜市出身の日本画家・沢宏靱(さわ・こうじん)が、故郷長浜から仰ぎ見た伊吹山の姿を描いたもので、上空にかかる月を頂点に左右対称に描かれた画面が、宗教画を思わせる静謐で荘厳な雰囲気を感じさせます。ふるさとの山に向ける画家の思いがよく伝わってくる作品です。

他にも、滋賀県各地の風景を捉えた秀作が多数展示されます。出品点数は全部で15点。ぜひご来場をお待ちしています。

なお併設の小倉遊亀コーナーも、同時に展示替えとなります。今回の展示作品は「磨針峠(すりはりとうげ)」、「雪」「姉妹(あねいもと)」など13点。併せてお楽しみ下さい。


常設展示「琵琶湖逍遥」 11月2日(火)−12月19日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料
 ( )内は前売および20名以上の団体料金。
※常設展示「赤と黒」(8月31日(火)−12月19日(日))と併せてご覧いただけます。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。