「白洲正子 神と仏、自然への祈り」展の見どころ紹介 その2

「生誕100年特別展 白洲正子 神と仏、自然への祈り」展の見どころを、順に紹介してゆくシリーズの第2弾です。
本展の会場は「西国巡礼」「近江山河抄」「かくれ里」「十一面観音」など、彼女の著作のタイトルなどにちなんだ10のコーナーに分けて、彼女の著作に基づきつつ、宗教芸術を中心にした日本の古い美術作品を紹介しています。

4番目のコーナーは「近江山河抄」。「近江は日本文化の発祥の地といっても過言ではないと思う」という言葉から始まるこの著作は、昭和47年に『芸術新潮』誌に連載されたもので、湖国滋賀県に寄せる白洲正子の思いがよく現れた紀行文学です。はじめに野洲の銅鐸(どうたく)などから近江文化の概要を述べ、そのあと京都から逢坂越(おうさかごえ)を通って近江に入り、南から北に向かって旅をするかたちで、大津京紫香楽宮(しがらきぐう)、比叡山から比良山、蒲生野(がもうの)の石造文化、伊吹に伝わる神話や円空(えんくう)仏、湖北の十一面観音などについて深く広く触れています。

上の写真左側は、竜王町東近江市の境にある雪野寺(ゆきのでら)跡出土の「塑造(そぞう)童子像」。塑像とは粘土などを捏ねて作った彫刻のことで、7世紀頃の作と考えられます。
右は長浜市木之本町鶏足寺(けいそくじ)の「十所権現(じゅっしょごんげん)」像」10体のうちの横山大明神(よこやまだいみょうじん)像・馬頭(ばとう)観音像」。十所権現とはこの寺を再興した伝教大師最澄が、天下の名神社十社の守護神を喚び寄せてこの寺の鎮守神としたとされることにちなむもので、この馬頭観音像は木之本町にある横山岳の祭神に由来するものです。

上の写真は米原市太平寺観音堂蔵の「観音像群像のうち十一面観音像(円空仏)」。円空は諸国を行脚して、一刀彫による素朴で野性味溢れる木彫りの仏像を数多く制作したことで知られる江戸時代の僧侶です。現代人にも人気の高い円空は美濃の出身ですが、実は彼は近江の伊吹山で修行したとされ、湖国に関わりが深い人物でもあります。大胆なノミの跡に円空の息づかいと真摯な祈りが感じられます。


5番目のコーナー「かくれ里」は、白洲正子の昭和44年の著作『かくれ里』にちなみます。知られざる山里や古寺などをたずねて、甲賀から大和の宇陀(うだ)、吉野や丹波、越前、伊賀、美濃から、滋賀の菅浦(すがうら。長浜市西浅井町)や葛川(かつらがわ。大津市高島市)などを歩いた傑作紀行文学です。本展ではこの著書で触れられた、知られざる古寺や神社ゆかりの作品を展示しています。

上の写真は甲賀市・油日(あぶらひ)神社蔵の「福大夫(ふくだゆう)面」。稲講会(いなこうえ)に用いられた男面で、永正5年(1508)、桜宮聖(さくらのみやひじり)出雲の作です。やはり本展に出展されている、稲講会で使用する“ずずいこ”人形も、同時期の出雲の銘があります。

上の写真は甲賀市・櫟野(らくや)寺蔵の『地蔵菩薩立像(りゅうぞう)』。 10世紀に作られた像で、等身大の堂々とした作品です。


「生誕100年特別展 白洲正子 神と仏、自然への祈り」
会期:10月19日(火)−11月21日(日) 月曜日休館
観覧料:一般 950円(750円))、高大生 650円(500円)、小中生 450円(350円)
    ( )内は前売および20名以上の団体料金。
企画展の観覧券で常設展「横山大観と仲間たち」(11月2日からは「琵琶湖逍遥」に展示替え)および「赤と黒」も観覧できます。