「白洲正子 神と仏、自然への祈り」展の見どころ紹介 その4


「生誕100年特別展 白洲正子 神と仏、自然への祈り」展の見どころを、順に紹介してゆくシリーズの第4弾です。
本展の会場は「西国巡礼」「近江山河抄」「かくれ里」「十一面観音」など、彼女の著作のタイトルなどにちなんだ10のコーナーに分けて、彼女の著作に基づきつつ、宗教芸術を中心にした日本の古い美術作品を紹介しています。

9番目のコーナーは「神と仏の仲立ち 修験の行者たち」
修験(しゅげん)とは、山岳信仰において仏教や道教陰陽道(おんみょうどう)などが習合して生まれたもので、山林で修行を行い、呪術の強力なパワーを獲得して祈祷を行う、密教的修行の一形態です。後には、聖護院(しょうごいん)や醍醐の三宝院(さんぽういん)を本寺として山伏(やまぶし)として組織化され、民間の祈祷などに従事しました。
修験の祖として奈良時代役行者(えんのぎょうじゃ)が崇められ、吉野・熊野を中心とする修行場が開発されました。山形県の出羽(でわ)三山、石川県の白山(はくさん)、愛媛県石鎚山(いしづちやま)など各地に修験の霊場が成立しましたが、これらはいずれも古来よりの山岳信仰の山でした。

上は滋賀県栗東市・金勝寺(こんしょうじ)蔵の4メートル近い巨大な「木造(もくぞう)軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)立像(りゅうぞう)」。本展示のクライマックスと呼べる作品です。なお明王とは密教独特の尊格で、仏教に未だ帰依しない民衆を帰依させようと恐ろしげな姿形を現して調伏・教化する仏のことです。

上は大津市明王院蔵の「宝塔(ほうとう)懸仏(かけぶつ)」。懸仏とは銅などの円板に仏像を鋳たものを付けたり浮き彫りにしたりしたもので、寺社の堂内に懸けて礼拝しました。


最後のコーナーは、白洲正子の最初の著作であり、彼女の原点でもある『能面』(昭和38年)にちなむ「古面」
そもそも白州正子の紀行や著作の原点は能楽にあり、能面を各地に求めた旅から発展して、様々な紀行文学に展開したものです。『世阿弥』『明恵上人』などの評伝も、最初は能楽や謡の演目から始まっています。能面こそ、白洲正子の原点だと言えましょう。
白洲正子の著作は紀行文の形から「道行きの文学」と呼ばれますが、そもそも「道行(みちゆき)」とは能楽(や浄瑠璃、歌舞伎など)の舞台場面・演出の形態の一つで、舞台がある地点から別の地点への経過、遊行(ゆうこう)の形、すなわち「旅」のかたちををとって進行するものです。「旅」こそ能楽の基本であり、また白洲正子の著作の原点なのです。

上の写真左は「岐阜・白山長滝神社(はくさんながたきじんじゃ)蔵の「延命冠者(えんめいかじゃ)」。長滝神社は白山の美濃側の霊場で、延年(えんねん)などの宗教芸能が伝えられています。延命冠者は長命・繁栄の徳相を備えた面で、この延年で使われます。14世紀、鎌倉時代末期頃の作です。
同じく写真右は奈良・天河(てんかわ)大弁財天社(だいべんざいてんしゃ)蔵の「尉面(じょうめん)」。尉面とは老人の相貌をあらわした面で、この面は世阿弥の子息・観世元雅(かんぜもとまさ)が同神社に寄進したものです。


「生誕100年特別展 白洲正子 神と仏、自然への祈り」
会期:10月19日(火)−11月21日(日) 月曜日休館
観覧料:一般 950円(750円))、高大生 650円(500円)、小中生 450円(350円)
    ( )内は前売および20名以上の団体料金。
企画展の観覧券で常設展「横山大観と仲間たち」(11月2日からは「琵琶湖逍遥」に展示替え)および「赤と黒」も観覧できます。