「白洲正子 神と仏、自然への祈り」展の見どころ紹介 その3

「生誕100年特別展 白洲正子 神と仏、自然への祈り」展の見どころを、順に紹介してゆくシリーズの第3弾です。
本展の会場は「西国巡礼」「近江山河抄」「かくれ里」「十一面観音」など、彼女の著作のタイトルなどにちなんだ10のコーナーに分けて、彼女の著作に基づきつつ、宗教芸術を中心にした日本の古い美術作品を紹介しています。

6番目のコーナーは「十一面観音巡礼」白洲正子の昭和49年連載開始の著作『十一面観音巡礼』にちなみます。
観音(観世音菩薩)には千手観音、馬頭観音などさまざまな変化身(へんげしん)がありますが、本体の顔以外に頭上に十一の顔を持つ十一面観音は、10種類の現世での利益(十種勝利)と4種類の来世での果報(四種功徳)をもたらすとされる、人気のある化身です。正子はこの著作の中で、各地に残された十一面観音を訪ねて、哲学者・和辻哲郎が『古寺巡礼』で絶賛した奈良・聖林寺(しょうりんじ)や、京田辺・観音寺の十一面観音像から出発し、木津川沿いに南山城や伊賀、近江や若狭、遠く信州の十一面観音像を巡礼しています。この種の巡礼紀行文学の代表となる作品です。

上の写真は奈良県大和郡山の山腹に建つ古刹、松尾寺蔵の「十一面観音像」。10-11世紀の作とされますが、奈良時代の作風の伝統を伝えています。


7番目のコーナーは明恵上人」。昭和41-42年の著作『栂尾高山寺(とがのお・こうざんじ) 明恵上人(みょうえ・しょうにん)』にちなみます。東大寺で華厳(けごん)学を学び、13世紀はじめに栂尾を後鳥羽天皇より拝領、高山寺を再興した明恵上人(1173-1232)の生涯を記した評伝です。本展の展示では、明恵上人の書状や、高山寺ゆかりの作品などを展示しています。

上の写真は明恵遺愛の品として高山寺に伝来する「神鹿(しんろく)像」です。鹿は高山寺鎮守神である、奈良の春日明神の使いとされています。像は (うんけい)子息の湛慶(たんけい)あたりの作とされます。


8番目のコーナーは昭和54年の著作にちなむ「道」。著作として特に一貫したテーマはありませんが、主に1970年代に『芸術新潮』に連載された随筆8本を集めたもので、正子が訪れた土地の、美にまつわる思いを記録したものです。

上の写真は本著作で言及されている、奈良・神野寺(こうのじ)蔵の「 銅造(どうぞう)菩薩半跏像(はんかぞう)」。火中のために表面が焼けただれていますが、穏やかな微笑をたたえた菩薩像です。右足を左足の上に組み、右手の指先を頬に当てた半跏思惟(はんかしい)像で、7世紀の作です。


「生誕100年特別展 白洲正子 神と仏、自然への祈り」
会期:10月19日(火)−11月21日(日) 月曜日休館
観覧料:一般 950円(750円))、高大生 650円(500円)、小中生 450円(350円)
    ( )内は前売および20名以上の団体料金。
企画展の観覧券で常設展「横山大観と仲間たち」(11月2日からは「琵琶湖逍遥」に展示替え)および「赤と黒」も観覧できます。