次回企画展『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』の内容ご紹介(3)


2月19日(土)から始まる新しい企画展『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』の内容をご紹介するシリーズの、第3回です。今回は前回に引き続き、出品作品の中から明治・大正時代に描かれた作品を何点かご紹介します。

上の写真は幕末から明治初期に活躍した京都画壇の重鎮、野村文挙(のむら・ぶんきょ)の「嵐山・高尾(あらしやま・たかお)図」です。桜が咲き誇る春の嵐山(桂川)と、紅葉に彩られた秋の高尾山を対にして描いた、華やかな金屏風です。江戸時代の中頃から、京都の日本画壇は円山応挙(まるやま・おうきょ)によって創始された「円山派」と、そこに文人画の要素を取り入れて生まれた「四条派」の強い影響下にあり、写生と自然観察を重視する独特の風土を形成していました。明治になって西洋の写実主義流入した際に、東京(江戸)の画壇よりも京都の画壇の方がすんなりと写実主義を受け入れることができたのは、この風土のおかげだとも言われています。野村文挙は四条派の流れにある画家であり、この作品においても植物の表現などに綿密な写生の成果が生かされ、金屏風に代表される日本画の装飾性の中に、近代の写実主義の精神が見事に開花しています。

この野村文挙に師事し、明治から昭和初期にかけての京都画壇をリードした巨匠が、大津市出身の山元春挙(やまもと・しゅんきょ)です。春挙は円山・四条派の綿密な自然観察と写生を受け継いだ上で、自らカメラを持って高山に登って取材するという近代的な実証主義精神と、人間に相対する厳しい大自然というロマン主義的な風景観を日本画の中に持ち込み、極めてスケールの大きい迫力のある大作を次々に描きました。上の作品「深山雪霽鹿(しんざんせっさいろく)図」にも、小さな鹿を飲み込んでしまいそうな巨大で厳しい自然の姿が、白と黒のモノトーンで迫力満点に描かれています。

一方東京では、学者・岡倉天心(おかくら・てんしん)の指導下に、横山大観(よこやま・たいかん)ら若い日本画家によって日本美術院が開設され、日本画と西洋画双方の優れた部分を取り入れた新しい日本画の確立を目指して苦闘を続けていました。大観たちが編み出した「朦朧(もうろう)体」と呼ばれる技法は、西洋画の空気遠近法(遠くのものほどかすんで見える描き方)を取り入れて、輪郭線を描かずに空と大地の区別が無くなった曖昧模糊とした空間を作り上げるというものでした。残念ながら朦朧体は当時の人々には受け入れられず、大観の盟友であった菱田春草(ひしだしゅんそう)は明治44年、若くして世を去りました。上の作品「落葉」は朦朧体の限界を乗り越えようとした時期の名作で、クヌギの木をリズミカルに配した装飾的な画面と、木の幹などに見られる西洋画風の写実性が見事にマッチし、春草の新しい境地をかい間見させてくれます。

大正2年に指導者・岡倉天心が亡くなり、瓦解の危機にあった日本美術院は、横山大観の必死の奔走によって再興日本美術院として息を吹き返します。この時大観は、速水御舟(はやみ・ぎょしゅう)や今村紫紅(いまむら・しこう)をはじめとする若い画家たちを仲間に招き入れ、彼らの個性的な作風が大正から昭和初期の日本画壇を彩ることになります。上の写真は速水御舟の初期の代表作「菊花図」です。

御舟はこの時期、徹底した細密描写によって、たとえ醜いものであっても見たままありのままを描き出すという写実主義の考え方を推し進めており、当時の若い画家たちに強い影響を及ぼしました。この作品においても菊の花びら一枚一枚を克明に描き出す鬼気迫るばかりのリアリズムが、作品に強烈な個性と迫力を与えています。

上の作品「四季草花図」を描いた小茂田青樹(おもだ・せいじゅ)も、御舟の写実主義に影響を受けた画家のひとりです。この作品は本来、春・夏・秋・冬の4隻からなる六曲二双屏風なのですが、いつしか作品がバラバラになり、現在当美術館では「夏季」と「冬期」の2隻を所蔵しています。

「四季草花図」は琳派の装飾的な屏風を模しつつも、細部においては上の写真のように徹底した細密描写を試みた意欲作です。青樹が自信満々で大正8年の再興院展に出品したこの作品は、しかし当時の院展の厳選主義のために落選となり、青樹は失意のあまり放浪の旅に出てしまいます。ですが現在では、この作品が青樹の代表作のひとつであることは疑いありません。

次回は昭和時代の作品をご紹介いたします。


『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』
◆会 期:2011年 2月19日(土)−4月10日(日)
◆休館日:毎週月曜日 ただし3月21日の祝日は開館。 翌3月22日(火)は休館
◆観覧料:一般 750円(550円) 高大生 500円(400円) 小中生 300円(250円))
      ( )内は前売および20名以上の団体料金
◆出品予定作品:江戸時代から昭和期までの、襖、屏風装による日本画作品約25件

★毎日、午後1時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。