常設展示「滋賀の工芸」の見どころご案内(2)

4月5日(火)から始まった新しい常設展示の中から、「滋賀の工芸」の見どころをご紹介するシリーズの、第2回です。今回は滋賀県ゆかりの3人の人間国宝(重要無形文化財保持者)作家のうち、前回ご紹介できなかった友禅着物の森口華弘(もりぐち・かこう)(守山市出身) と、鉄釉陶器の清水卯一(しみず・ういち)(大津市で活躍)の2氏の作品をご紹介いたします。


森口華弘は、1909(明治42)年に現在の滋賀県守山市岡町に生まれました。1924(大正13)年に京都の友禅師・中川華邨(かそん)に入門し、15年間の修業の後独立、1955(昭和30)年の第2回日本伝統工芸展に技法の異なる三点の作品を出品し、すべて入選(そのうち一点は特選)するという華々しいデビューを飾りました。以後、毎年創意工夫を凝らした作品を展覧会に出品し続け、1967(昭和42)年には人間国宝に認定されています。

友禅染は江戸時代の扇絵師・宮崎友禅斎に始まると言われる、華麗な手描き染色の技法です。一般的には多彩な色で極彩色に染め抜かれた装飾的な着物が連想されますが、森口華弘の作る友禅着物は用いられている色数が極端に少なく(一作品に4−5色くらい)、デザインもシンプルなのが特徴です。その代わり徹底した自然観察と綿密な写生を踏まえたデザインの見事さには特筆すべきものがあります。例えば上の作品「春遊(しゅんゆう)」は琵琶湖の湖面に遊ぶオシドリの群れを文様化したものですが、用いられている色彩は生地の白を除けば黒(墨)、ピンク、金色のわずか3色。けれども描かれているオシドリの姿には同じポーズのものは二つとなく、生きた水鳥の生態を見事に捉えた生き生きとした姿をしています。着物全体に華弘が考案した蒔糊(まきのり)という独特の技法による無数の斑点が生じ、装飾性を高めています。

上の作品「双華」は、向かって左側にシルエットで処理された昇り梅、右側に線描主体の枝垂れ梅という、異なる技法で2種類の梅の花をあしらった凝ったデザインの作品です。この作品にもバックのグレーの地には蒔糊技法がふんだんに使われ、ムードを高めています。蒔糊とは細かい粒子状にした糊を生地の上に均等に撒き、その上から刷毛で染めることによって糊の粒子が乗った部分だけを染め残すというもので、漆芸の蒔絵にヒントを得て考案したものだと言われています。
今回の展示でご覧いただける森口華弘の作品は以上の2点ですが、森口芸術の精髄はじゅうぶんにお楽しみいただけます。


1985(昭和60)年に鉄釉(てつゆう)陶器の人間国宝に認定された清水卯一は、1926(大正15年)に京都の清水(きよみず)で生まれました。14歳の時、中国宋代の鉄釉陶器を研究した石黒宗麿(いしぐろ・むねまろ)に師事して陶芸技法を学び、1970(昭和45)年に滋賀県の比良山麓に移住して「蓬莱窯(ほうらいがま)」を開きました。以後2004(平成16)年に77歳で亡くなるまで、蓬莱の地で数え切れないほどの釉薬、陶土、磁土を発見、研究し、膨大な種類と量の作品を制作しては作品を日本伝統工芸展などに発表し続けました。

清水卯一の芸術の最大の特徴は、ひとつの境地に満足せず、常に新しい技法を求めて前進を繰り返した点にあります。例えば鉄釉陶器と一言で言っても、上の写真「柿釉壺(かきゆうつぼ)」のような酸化第一鉄(赤さび)の鮮やかな朱色を見せる作品もあれば、

上の写真「鉄耀水指(てつようみずさし)」のように酸化第二鉄(黒さび)の見事な黒と、ギラギラした油滴の模様が重厚な雰囲気を見せる作品、

そして上の写真「蓬莱青瓷輪花鉢(ほうらいせいじりんかばち)」のように、還元炎によって鮮やかな青に発色し、貫入(かんにゅう)と呼ばれる細かいひびが美しい模様を生み出す作品など、鉄釉という素材を縦横無尽に駆使して千差万別の作品を生み出しています。芸術家としてのインスピレーションと、科学者の実験精神を合わせ持ち、常に新しい境地を求めてたゆまぬ創作活動を続けたその姿勢には、頭が下がります。

清水卯一は、蓬莱の地で取れた鉄を多く含む土で作品を作ることにこだわりましたが、鉄釉以外に白い長石釉も好み、鉄釉と組み合わせて独特の作品も制作しています。上の写真「蓬莱磁堆線壺(ほうらいじたいせんつぼ)」は長石を多く含む釉薬によって、柔らかな淡い水色に発色した美しい作品です。また鉄釉の上から長石釉を二度掛けしてツートンカラーに仕上げた作品や、長石釉が乾かないうちにその上から指で絵や文字を描いた味わいのある作品など、ユニークな作品も数多く制作しています。
今回の展示では、このバラエティに富んだ清水芸術のエッセンスを伝えるために、10点の作品を展示しています。

次回は滋賀県が誇るその他の工芸作家たちの作品をご紹介いたします。


■常設展示「滋賀の工芸」4月5日(火)−6月26日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料 ( )内は20名以上の団体料金。
※併設「マチスピカソ」「小倉遊亀コーナー」も一緒にご覧いただけます。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。