「夏休み子ども美術館」の見どころ紹介(1)


今月末の6月28日(火)から始まる夏期常設展示「夏休み子ども美術館」は、毎年恒例、子どもたちや初心者を対象とした美術入門編の展示です。楽しいクイズやワークシート、ゲームなどの活用によって、誰でも楽しみながら美術の世界に親しめるよう工夫してあります。今回は「アートはヒミツのかくれんぼ」をテーマに、作品の中に隠れたさまざまな「隠れているもの」「隠れている要素」「隠された謎」を、作品をよく観察したり読み解くことで、発見したり解き明かしてゆくという趣向で開催いたします。

展示作品は、当館の収蔵品(日本画・郷土美術と現代美術の作品)の中からテーマに沿って選りすぐった44点(他に小倉遊亀コーナー14点、工芸展示コーナー4点の展示あり)。どの作品の中にも、いろんなものがかくれんぼしていますよ。大人も子どももかくれんぼの鬼になって「みーつけた!」してみませんか?

展示作品の一部は前回も少しだけご紹介いたしましたが、今回からさらに数回に分けて、本展示の見どころを紹介してゆこうと思います。今回は、絵の中にかくれている人や動物を「みーつけた!」してゆきましょう。

上の作品は滋賀県米原市出身の人気画家、山形博導(やまがた・ひろみち)の連作「四つの都市」の1枚、「パリ」です。凱旋門を遠くに望むシャンゼリゼ通りのおしゃれなカフェのテラス席。美術館から名画を盗み出してきた泥棒3人組を包囲した警官隊が、大捕り物の真っ最中です。画面のあちこちをよく観察すると、テラスの日除けの上にネコがいたり、うっかり手を放れた風船がいっぱい空に逃げていったりと、楽しいものがいっぱい描かれています。
さてここで問題。次のものは、絵の中のどこにあるでしょうか?
(1)手にとてもへんなものを持ったおまわりさん。
(2)誰かが落としていったぶっそうなもの。

答えは上の図版のとおり。(1)は泥棒たちを追いつめた4人の警官のうち、左から2人目です。右手に長いフランスパンを持って、いったい何をする気なのでしょうか?
(2)は街路を歩く親子連れの左にある黒い街灯の左下。地面に落ちている拳銃を見つけた2人のおじさんが「どうしよう?」と途方にくれています。

続いて登場する作品は、出店久夫(でみせ・ひさお)の「私風景’89 one×two×four」(上の写真)。何だか万華鏡を覗いたような摩訶不思議な風景が広がっているユニークな作品ですが、実はこの画面、作者がカメラで撮影した日常のさまざまな風景や事物をコラージュで切り貼りし、下の写真のようなシュールで奇妙な風景を作り上げてから、それをさらに上下左右に鏡像反転させたものと繋ぎ合わせて完成させたものです。ですから万華鏡のように、同じ風景が無限に繰り返されて繋がっているように見えるのです。

原版になったコラージュ風景もよく見ると、飛行機だったり子ども用のビニールプールだったり卵の殻だったりと、タネを明かせば何の変哲もないものばかり。その組み合わせ方が絶妙なので、とても不思議な風景に見えるのです。
では問題。上の「原版になったコラージュ風景の中に、動物の「ブタ」がいます。いったいどこにいるでしょうか?

正解は上の黄色い○の位置です。言われてみると確かに、可愛い子ブタの姿が発見できますね。他にも色んなイメージが作品の中にかくれていますから、いろいろさがしてみましょう。


続いて日本画の作品をご紹介します。上の写真は大津市出身の京都画壇の巨匠、山元春挙(やまもと・しゅんきょ)の代表作「富士二題」です。大きめの掛け軸が2点で1セットの作品です(日本画の世界ではこれを「二幅(にふく)」と数えます)。向かって右側が春の風景。雨上がりの朝の富士山の姿を、神秘的に迫力満点に描いています。一方左側は、秋の夕方の富士山。人里の暖かい暮らしを見守るような、堂々とした風格のある富士山の姿です。

ではここで問題。この二幅の富士山の絵には、いずれも動物の姿が描かれています。それはどんな動物で、いったいどこに描かれているでしょうか?

正解は上の写真のとおり。右側の図版では右下隅から中央に向かって伸びる木のいちばん下の枝の上に、青い羽根のタカのような鳥が留まっているのが見つかります。小さいので一見非常にわかりにくいのですが、一度その存在に気がつくと、この鳥が画面のかなめになっていることがわかります。作品を見る人がこのちっぽけな存在であるタカに感情移入することによって、風景のとほうもない巨大さ、威圧感がさらに増して感じられるのです。
もう一方の左側の絵はどうでしょうか? ウマの姿を見つけるのは難しくないと思いますが、そのすぐ左側に、寝そべったイヌの姿を見つけることができたでしょうか? いずれも人間に飼われている動物であり、右の画面の「野生の鳥」とは好対照になっています。実はこの作品、動物たちだけでなく、様々な要素が右の画面と左の画面とで「対」になるように描かれているのです。春と秋、朝と夕暮れ、雨上がりと日本晴れ、秘境と里山、など。ほかにもどんな対照的な要素があるか、あなたも作品をよーく観察して、そして「みーつけた!」して下さいね。

次回以降も、「夏休み子ども美術館」の出品作品をご紹介してゆきます。


■常設展示「夏休み子ども美術館:アートはヒミツのかくれんぼ」 6月28日(火)−9月4日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料 ( )内は20名以上の団体料金。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。