夏至の日の正午に影が消える!? 不思議な作品の謎を追え!

美術館の入口を出て、そのまま右(西側)に向かって進むと、バス停に向かってのびる石畳の遊歩道があります。この道は「彫刻の道」といって、その途中には3つの風変わりな野外彫刻が設置されています。

この彫刻群の中に、ひときわユニークな作品があります。右の写真がその作品、山口牧生(やまぐち・まきお)の「夏至の日のランドマーク」です。一見したところ、表面に細かい凹凸が刻まれて、淡い赤色で著色された羊羹型の御影石の柱が、地面に斜めに突き刺さっているだけという、実にシンプルきわまりない作品です。一体この作品のどこがそんなにユニークなのでしょうか?

実はこの作品には、一年でいちばん昼間が長い夏至の日の正午になると、《影が消えてしまう》という宇宙規模の仕掛けが施されているのです。石の柱の傾きが、夏至の日の正午に太陽がある方向(南中点)と完全に一致するように作られているため、この時の彫刻の影が、彫刻自身と重なって見えなくなるのです。

厳密に言うと、夏至の日のちょうど正午に影が消えるわけではありません。この作品が位置する滋賀県大津市での太陽の南中時刻は、大津市日本標準時の基準点となっている兵庫県明石市での南中時刻より、6分程度早いのです(大津市明石市よりも東にあるため)。そのため、この作品の影が完全に消えるのは、午前11時54分頃ということになります。
今年(2011年)の夏至は、6月22日の水曜日です。もしもこの日が晴れたら、午前11時54分頃に影が消える瞬間を、あなたも目にすることができるかも知れませんよ。

夏至の日でなくても、作品に近づき石の傾きに沿って空を見上げると、はるかその先には夏至の日の正午の太陽があると思えば、なんとも宇宙的なスケールを実感できるではありませんか。さあ、作品の影が消える瞬間を、あなたもぜひ確かめに来られませんか?

(写真:山口牧生「夏至の日のランドマーク」 1986年 黒みかげ石、ベンガラ彩色)