「夏休み子ども美術館」の見どころ紹介(1)


ただいま好評開催中の常設展示「志村ふくみと滋賀の工芸」および「縦と横」は、いよいよ6月24日(日)で終了します。26日(火)からは新しく、子どものための美術入門編的な展示「夏休み子ども美術館:ひらけ!フシギのたからばこ」が始まります。
毎年恒例のこの企画は、単に作品を陳列するだけではなく、作品の脇に鑑賞の手掛かりとなるクイズを用意したり、作品を見ながらいろいろ考えたり書き込んだりできるワークシートを無料配布したり、展示作品を使ったアートゲームのコーナーを用意したりと、様々な趣向を凝らした楽しい展示になっています。
子どもたちだけでなく、美術が苦手だ、鑑賞の仕方がよくわからないとおっしゃる大人の方々にも、気軽に楽しめる内容です。

展示方法だけでなく、展示する作品もふだんあまり展示されることがない作品にも焦点を当てた、ユニークな内容になっているのが特徴です。今回から数回に分けて、本展示の中から特に見どころになっている作品を、コーナー別にご紹介してゆきたいと思います。まずは、現代美術の展示から。


1.【フシギな にんげん】
このコーナーは、人間や人体をテーマにした現代のユニークな作品を多数紹介しています。

上の作品は「虹の作家」として知られる靉嘔(あいおう)の版画作品、「レインボー・ナイト4」です。男女の愛をテーマにした連作の中の1点で、キスをする男女の姿が虹色の美しい縞に彩られて幻想的に表現されています。シルエットになった横顔をよく見ると、左側が女、右側が男だとわかります。虹のグラデーションは二人の動きまで表現しているかのようです。いやらしさなど微塵もない、とても明るく楽しい作品です。

天井からワイヤーで吊られた上の作品は、ジョナサン・ボロフスキーの「ブリーフケースを持つ人」。作者自身の身体から輪郭線をかたどって作ったという、厚さ7ミリのアルミ板でできた作品です。帽子をかぶり、ブリーフケース(書類かばん)を持つその姿は、毎日飛行機に乗って世界中を忙しく飛び回っている、現代のビジネスマンを表わしているのだとのこと。男とも女とも判別がつかない姿にわざと仕上げているのも、現代人すべての似姿を意図したからだそうです。けれどもこのビジネスマン、身体が空虚で向こう側が透けて見えます。忙しさのあまり人間性を置き去りにしてしまった現代人に対する、警鐘なのかも知れませんね、


2.【フシギな ぶったい】
このコーナーでは、いったい何に使うのか正体がよくわからない、奇妙な物体を表わした作品をご紹介いたします。

上の作品は現代陶芸作家、中村康平(なかむら・こうへい)の「記憶気管II」。とても陶芸とは思えないような形と色をしていますが、中村は釉薬の研究を熱心に重ね、陶芸で岩や化石としか思えない質感を出すことに成功しました。土の中から掘り出されたばかりの、これは何かの動物の背骨と肋骨の化石なのでしょうか。恐竜の骨のようにも、人間の骨のようにも見えます。よく見ると骨だけではなく、内臓の一部のような管まで伸びています。タイトルが示すように、これが「気管」なのでしょうか? 気管は肺に空気を供給する大切な管、いわば生命線であり、言葉でコミュニケーションを取ろうとする時にも欠かすことができない器官です。骨になっても気管だけは残っているこの生物、きっと私たちにまだ伝えたいことがいっぱいあるのかも知れませんね、

上の作品は金村仁(かなむら・ひとし)の「絵になる冷蔵庫」。平坦に色を塗られた4枚のキャンバスが、ハンガーに掛けられた洋服のように棒に吊り下げられています。このキャンバスの色、なんだか見覚えがありませんか? そう、ひと昔前に流行した、小型冷蔵庫のカラフルな色彩そのままなのです。冷蔵庫のようで、洋服のようで、でもただのキャンバスでしかない不思議な物体。見る人によっては、この4つの色が「春・夏・秋・冬」をそれぞれ象徴しているようにも、人生の4段階(子ども・青年・壮年・老年)を象徴しているようにも見えるということです。


3.【フシギな ふうけい】
このコーナーでは、戸外や室内などの風景を予想もつかない風変わりな表現に変えてしまったユニークな作品群をご紹介します。

上は福岡道雄(ふくおか・みちお)による風景彫刻「波に寝る」。黒いFRP(強化プラスチック)で作ったミニチュアの風景です。黒い円筒の上面がそのまま水面に見立てられていて、その上には小さなボートが浮かんでいます。福岡は琵琶湖で釣りをするのが趣味であり、この作品も琵琶湖にボートを浮かべて昼寝を楽しむ自分自身の姿を表わしたものだそうです。黒い色で作ってあるのは、季節や時刻を自由に想像してもらい、見る人に自由に感情移入してもらうため。子どもの頃の想い出を懐かしむのも、琵琶湖の舟遊びに興味を示すのも、見る人次第です。

上の3点組の写真は、野村仁(のむら・ひとし)による「午前のアナレマ」「正午のアナレマ」「午後のアナレマ」の3部作です。アナレマとは天空上を一年間に移動する太陽や天体の位置を記録した図表のこと。この作品は庭にカメラを固定して、ある時刻の天空上の太陽の位置を1枚のフィルムの上に約10日おきに撮り続けたもので、8の字を描いているのが一年間の太陽の軌跡です。いちばん高い位置が夏至、低い位置が冬至の太陽を示しています。3点セットで並べると、宇宙的なスケールが実感できて思わず感動してしまいます。


4.【フシギな いろと かたち】
このコーナーに展示されているのは、色と形を自由に組み合わせて作った抽象絵画ばかり。とかく、わけがわかならないと思われがちな抽象絵画を、子どもの目になって楽しんでみましょう。

上は韓国籍の画家、鄭相和(チョン・サンファ)の「無題90-2-3」。鄭は画面にべったり塗った絵具をパレットナイフで丹念に削って、魚の鱗のような奇妙な模様を作ります。見る方向によって光の反射具合が変わり、元は同じ青のはずなのに千差万別の色に見える不思議な作品です。想像力次第で、雪と氷の壁のようにも、ドラゴンの肌のようにも見える面白い作品、ぜひ写真ではなく実際に目の前でご鑑賞下さい。

上は滋賀県ゆかりの画家、萩駿(はぎ・たかし)の「UNIVERSE 暁光(ぎょうこう)」。ドロドロに溶いた絵具を流し掛けして不思議な雲のような模様を作り、幾何学的な描線と組み合わせて太陽を取り巻く雲のような、あるいは宇宙空間で星間物質が集まり恒星が生まれる瞬間のような、とてもスケール感のあるイメージを生み出しています。あなたにはこの作品、いったいどんな情景に見えるでしょうか?


以上、今回は現代美術部門の中から作品をご紹介いたしました。次回は日本画・郷土美術部門の展示品をご紹介いたします。


常設展示「夏休み子ども美術館:アートはヒミツのかくれんぼ」 6月28日(火)−9月4日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料
( )内は20名以上の団体料金。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。