常設展示「滋賀の洋画」の見どころ紹介(3)

1月21日(土)から始まる新しい常設展示「滋賀の洋画」「日本の前衛」のうち、《日本画・郷土美術》部門の展示「滋賀の洋画」の内容をご紹介するシリーズの第3弾です。本展示の中心となっているのは前々回取り上げた黒田重太郎(くろだ・じゅうたろう)と、前回の野口謙蔵(のぐち・けんぞう)ですが、彼ら二人以外にも本展では滋賀県ゆかりの洋画家たちを多数展示しています。今回はそうした画家たちの作品をご商会します。

秋口保波(あきぐち・やすなみ。1897─1976)は彦根市の出身で、大阪の信濃橋洋画研究所で黒田重太郎や小出楢重(こいで・ならしげ)に師事しました。また野口謙蔵とも親交があった画家です。その作風は西洋のフォーヴィスム(野獣派)を元に日本的なアレンジを加えたもので、強い個性を放っています。湖東平野を舞台にしたとおぼしき上の作品「午後の日(鈴鹿山)」を見ても、濃く鮮やかな輪郭線や、青とオレンジという補色の強烈な対比などが目を惹きます。野口謙蔵の作品と身比べてみると面白いでしょう。

鷲田新太(わしだ・あらた。1900─1968)は野洲市の出身で、秋口保波と同じく春陽会展に出品を続けました。70歳を越えた1973年に渡仏し、その頃から急に注目を集めるようになったというユニークな存在です。フォーヴィスムの影響が強い勢いのあるタッチで、街の風景を奔放に描くのを得意としていましたが、上の作品「法燈無尽」では京都の三十三間堂に取材して、内省的で宗教性の強い独自の世界を構築することに成功しています。

大津市出身の三田康(さんた・やすし。1900─1968)は戦前に帝展や、猪熊弦一郎らと結成した新制作派協会展で活躍した画家です。戦後は油彩を離れ、新聞の挿絵等を描きました。次ページ上の作品「早春」は非常に単純化・様式化した画面の風変わりな作品で、レンギョウの黄色い花が咲く早春の庭を描いたものです。前掲に立ち並ぶバショウの幹や背後の壺池などを見てもわかるように、写実主義を離れた幾何学的で様式的な表現が強く印象に残ります。

伊庭伝次郎(いば・でんじろう。1901─1967)は近江八幡市の出身で、二科展で活躍する一方、京都市美術大学等で教鞭を取り後進の指導にも力を尽くした画家です。上の作品「溪谷」は印象派の影響が強い、大掴みで大胆な筆致でありながら、春の溪谷のせせらぎの音や水の匂いすら漂ってきそうな臨場感溢れる表現になっているのが面白い作品です。なお今回、現代美術の展示室で作品を展示中の伊庭靖子(いば・やすこ)氏は伝次郎の孫にあたります。

島野重之(しまの・しげゆき。1902─1966)は彦根市の出身。東京美術学校で岡田三郎助に学び、主に帝展・日展や光風会展などで活躍しました。主に人物画や風景画を得意としていましたが、印象派フォーヴィスムの影響を受けながらも、抑制された手堅い表現に特徴があります。上の作品「室内」でも、描く対象の量感(ヴォリューム)を見事に捉えた構築的な構成が見事です。

島戸繁(しまと・しげる。1902─1998)は岐阜県の出身ですが、彦根市に移り住み、生涯彦根漁港の風景を主題に、雨の日や晴れの日、雪の日などさまざまなシュチュエーションで描き続けた画家です。上の作品「雨後の漁港」では、どんよりとした湖面に映る緑の表現、雨の匂いが漂ってきそうな湿った空気の表現、そしてこれから次第に晴れてゆくだろうことを予想させる巧みな陽光の描写などが印象的で、臨場感溢れる作品に仕上がっています。

全和凰(ぜん・わこう、チョン・ファハン。1909─1993)は朝鮮平安南道安州の出身。戦後須田国太郎に師事し、主に行動美術会展で活躍しました。晩年は現在の滋賀県高島市に移り住み、滋賀県の郷土性を色濃く反映した作品などを描きました。上の作品「ねんねよ、おころりよ」は夕日を背景に、赤ん坊をあやす母親を描いたノスタルジックで暖かい作品。見る者が思わず子守歌を口ずさんでしまいそうな、懐かしい風景です。

最後の安田謙(やすだ・けん。1911−1996)は京都の洋画家ですが、今回の展示では滋賀県を代表する山である伊吹山を描いた作品「雪景伊吹山」をご紹介いたします。氷のはった池を前景に、巨大な山体を悠々と晒す雪の伊吹山。ダイナミックな表現を得意とする安田らしい力強い作品です。野口謙蔵が描いた湖東平野の風景や、島戸繁が描く彦根漁港の風景などとともに、滋賀の美しい自然を描いた作品のひとつとしてお楽しみ下さい。

今回の展示「滋賀の洋画」、彼らを育んだ滋賀県の風土に思いを馳せるもよし、滋賀県と関西洋画壇との深い関係に注目するもよし、あまり知られていない郷土の画家たちの存在を再認識するもよし、様々な楽しみかたができる内容となっています。この機会にぜひ、郷土滋賀県ゆかりの洋画作品をまとめてご覧ください。


常設展示「滋賀の洋画」「日本の前衛」 1月21日(土)−4月1日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円)、高大生 250円(200円)、小中生 無料
( )内は20名以上の団体料金。
※現代美術の展示「日本の前衛」(1月21日(土)−4月1日(日))も同時にご覧いただけます。
※企画展「近代の洋画・響き合う美」(1月21日(土)−3月11日(日))の観覧券で、常設展もご覧いただけます。