企画展「近代の洋画・響き合う美」の見どころ紹介(2)


いよいよ今週末、1月21日(土)から始まる新しい企画展「近代の洋画・響き合う美─兵庫県立美術館名品展─」の内容を紹介するシリーズの第2弾。今回は前回に引き続き、大正から昭和初期に活躍した洋画家たちの名品と、兵庫県が生んだふたりの巨匠、金山平三と小磯良平の作品をご紹介いたします。

(3)洋画の名品より
大正時代は二科会以外にも、新しい芸術を目指す若い画家たちによってさまざまな団体が結成され、さまざまな手法が試みられた時代です。

上の作品「樹と道 自画像其四」を描いた岸田劉生(きしだ・りゅうせい)は「麗子像」のシリーズで有名な画家ですが、ゴッホセザンヌに影響を受けて大正元(1912)年に斎藤与里(さいとう・より)らとフュウザン会(フュウザンとは木炭画の意味)を結成し、さらに大正4年には西洋のルネサンス絵画の徹底した写実精神を日本にも取り入れようと草土社を結成するなど、同時代の画家たちに大きな影響を与えた存在です。本作品はフュウザン会結成の翌年の作品で、ゴッホの影響を感じさせつつも、自分自身の内面に迫ろうとする真摯な姿勢が溢れている極めて精神性の高い一点です。

大正から昭和初期に二科会やフュウザン会・草土社と並んで重要な役割を果たした団体に、前田寛治(まえた・かんじ)や佐伯祐三(さえき・ゆうぞう)らによって大正15(1926)年に結成された「1930年協会」、さらにその後身とも言える昭和5年結成の「独立美術協会」があります。昭和5年に33歳の若さで夭折した前田寛治はこれらの団体に大きな影響を与えた存在で、西洋のフォーヴィスム(野獣派)の影響を受けた力強い筆致で、古典的な構図の裸婦像を描くという独特のスタイルは「前寛(マエカン)ばり」と呼ばれて多くの画家たちに模倣されました。上の作品「ベットの裸婦」からも、前田寛治の独特の造形感覚を偲ぶことができます。

独立美術協会で活躍した画家たちの中でも、須田国太郎(すだ・くにたろう)はとりわけ特筆すべき存在です。西洋のフォーヴィスムを基本としつつも、独特の重厚なタッチを編み出して西洋画の技法と日本的精神との融合に砕心し。精神性の高い極めて日本的な風景表現を確立しました。上の作品「工場地帯」は京都・宇治のどこにでもあるような工場地帯を描いたものですが、須田は遠景を明るく、近景を暗く描く画面構成と、幾重にも筆を重ねた微妙な色彩の変化を見せる細部の表現により、極めてスケール感のある遠大な風景表現へと昇華しています。

二科会で活躍した阿部合成(あべ・ごうせい)による上の作品「見送る人々」は、日中戦争が始まった年、昭和12(1937) 年に描かれた問題作です。タイトルが示すように、出征する兵士を見送る人々の感情を露わにした表情を、グロテスクにさえ感じられる仮借ない表現で描き出した群像絵画の名作です。北方ルネサンスの画家、ヒエロニムス・ボッシュの影響もあると言われています。不幸なことにこの作品は官憲によって「反戦絵画」と見なされ、阿部は当局に目をつけられて不遇をかこつことになりました。


(4)ふたりの巨匠─金山平三と小磯良平
本展の4番目のコーナーでは、兵庫県に生まれた大正・昭和を代表する二人の洋画家、金山平三(かなやま・へいぞう)と小磯良平(こいそ・りょうへい)の作品を年代を追って展示し、この二人の巨匠の芸術世界に触れていただきます。

金山平三(明治16(1883)年─昭和39(1964)年)は黒田清輝に師事し、東京美術学校西洋画科を首席で卒業した秀才です。上の作品は20代半ばの作品「秋の庭」で、白樺派に代表される明治40年代のロマンティックな空気に溢れています。

金山は東京美術学校卒業後はフランスに留学しますが、留学中ヨーロッパ各地を写生旅行で回ったほどの旅行好きでした。この当時は印象派などの影響を特に強く受け、上の作品「無題(パリ風景)」などを残しています。

帰国後は印象派の影響を昇華するかたちで、日本の気候と風土に根ざした風景画を描こうと、日本全国を旅して多くの作品を仕上げました。上の作品「北陸の海岸」では、雪が残る海岸の上に重く垂れこめた空と荒々しく打ち寄せる波をカメラを大きく引いたような広角で捉え、スケール感溢れる重厚な風景画に仕上げています、

また上の作品「大石田最上川」は、大正12年以来毎年のように訪れている山形県大石田の地を主題に描いた作品の一点で、淡い色を重ねた川面の反映の美しさだけでなく、この地に住む人々の生活の匂いまで漂ってきそうな作品に仕上げています。

金山は風景画だけでなく、静物画や人物画の領域にも多くの作品を残しています。特に歌舞伎を題材とした、緊張感のある一瞬の場面を鮮やかに捉えた作品には定評があります。上の作品「無題(円塚山・だんまり)」は歌舞伎「南総里見八犬伝」の一シーンを描いたもので、《だんまり》と呼ばれる暗闇の中での立ち回りのシーンを、躍動感溢れるタッチで表現しています。

一方の小磯良平東京美術学校で学び、在学中に帝展入選を果たし、首席卒業を果たしたほどの英才でした。卒業後すぐにフランスに留学し、ルーブル美術館で見たイタリア・ルネサンスの画家パオロ・ヴェロネーゼの「カナの婚礼」に感銘を受け、以後《群像表現》を生涯のテーマにすることを誓いました。上はこの頃の作品「横臥裸婦」で、アングルをはじめとするフランス古典主義の作品の研究がよく生かされていることがわかります。

上の作品「洋裁する女たち」は帰国後の作品で、画面を人物の途中で断ち切って人物の動きを立体的に強調するなど、ドガロートレックの影響を感じさせる一点です。

その2年後、昭和16(1941)年に描かれた上の「斉唱」では、あえて人物を立体的に配置せず、よく似た身長の人物をルネサンス期のレリーフのように横方向に並列させて並べることで、群像の統一感に重きを置いた表現になっています。統一感の一方で、同じ服装の人物を横に並べることによって、かえって個々の人物の個性が強調されています。画面全体に満ちる清楚な雰囲気が見る者を心地よく包み込む、小磯の代表作の一点です。

上の作品「働く人と家族」は戦後の作品で、やはりルネサンス研究が生かされた力強い作品です。習作風の作品ですが、小磯の人体デッサンの的確さや、奥行きの浅い空間の中でスケール感を出すための工夫などについて多くを知ることが出来る、興味深い作品です。
この他、本展では小磯が従軍記録画家として描いた兵士のデッサンなど、珍しい作品もご覧いただけます。

次回も今回に引き続き、昭和戦前期の前衛画家たちの作品や、神戸ゆかりのユニークな画家たちの作品をご紹介いたします。


企画展示『近代の洋画・響き合う美─兵庫県立美術館名品展─』
■会期=平成24(2012)年 1月21日(土)─3月11日(日)
■休館日=毎週月曜日
■観覧料=一般950円(750円)・高大生650円(500円)・小中生450円(350円)
      ※( )内は前売及び20名以上の団体料金
※企画展の観覧券で、常設展示「滋賀の洋画」「日本の前衛」もご覧いただけます。