春の常設展示「生命の気配」が始まりました

本日3月31日(火)から、常設展示室の現代美術部門が春の新しい展示「生命の気配」に展示替えとなりました。(6月28日まで)



雄大な大地や、咲き誇る花々、風にそよぐ木々、生命力にみなぎる動物たち。生命の表現は長く美術作品の主題として用いられ、人々の心を魅了し続けてきました。今回の展示「生命の気配」では、植物をはじめとする自然の造形にモチーフを求めたり、生命的フォルムを用いている現代の造形作品ばかりを集めて展示いたしております。
今回の見どころのひとつは、20世紀前半を代表するフランスの巨匠アンリ・マチスの巨大なシルクスクリーン版画「オセアニア 海」と、リトグラフによる軽快な版画集「シャルル・ドルレアン詩集」です。前者は切り紙絵を活用して南洋オセアニアの海に遊ぶさまざまな生き物たちの姿を半ば抽象的に表現し、地上の楽園を表現しようとしたものです。また後者は流れるような息づく描線で装飾的な植物文様や人物画などを軽やかに描いています。
また抽象表現主義の画家クリフォード・スティルは雄大で人間を拒絶するようなアメリカの大自然を再現するかのように、巨大な生成りのキャンバスに直接油絵の具を塗り込め、自然の生命力が息づく濃密な抽象画面を作り上げます。アースカラー(大地の色使い)で表現されたギザギザの色面の集合体は、その背後にどんな生き物の気配を隠しているでしょうか。
また今回の展示は、中堅からベテランの日本の現代美術作家の作品を多く取り上げているところにも特徴があります。今日の現代美術では生物的なモチーフは、機械的・非人間的な効率性を重視する現代文明に対するアンチテーゼとして採用されることがよくあります。現代日本の作家の中にも、自然との交感をテーマに生物的なフォルムを採用する者や、外界を見る人間の視覚をテーマに自然のモチーフを用いる作家たちが数多くいます。樹冠や木々の影などをソフトフォーカスやスローシャッターを駆使して撮影し、柔らかく曖昧な視覚世界を作り上げる秋岡美帆(あきおか・みほ)や、水辺の植物の写真を元に徹底したスーパーリアリズムによって人間の視覚の奇妙さを暴く岡田修二(おかだ・しゅうじ)の油彩画などは、その代表だと言えるでしょう。また、琵琶湖の湖面に泡となって浮かび上がった魚の気配をFRPによる風景彫刻で表現した福岡道雄(ふくおか・みちお)の作品、アトリエの庭に生えているユリノキの葉を集めてその輪郭を銅板で切り抜き、舟か棺桶を思わせる木の直方体の内部に納めてユリノキに対する自身の思いを表現した若林奮(わかばやし・いさむ)の作品、ガス管がニョキニョキと枝を伸ばしてサクラの花を咲かせる詩的なイメージを立体で表現した北辻良央(きたつじ・よしひさ)の作品など、生命をモチーフにした様々なユニークな作品群をご覧いただけます。


常設展示「生命の気配」 3月31日(火) − 6月28日(日)
 「新収蔵品を中心に」3月10日(火)─5月6日(水)開催、「滋賀の工芸」5月8日(金)─6月28日(日)開催と併せてご覧いただけます。
休館日:毎週月曜日(月曜が祝日・振替休日の場合は開館し、翌日休館)
観覧料(共通):一般 500円(400円))、高大生 300円(240円)、小中生 無料 ( )内は20名以上の団体料金。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。