初夏の常設展から その3

前回前々回に引き続き、ただ今開催中の初夏の常設展示の見どころをご紹介いたします。
日本画・郷土美術部門》の現在の展示は「志村ふくみと滋賀の工芸」です。近江八幡市出身の紬織の人間国宝・志村ふくみの作品を中心にして、滋賀県を代表する工芸作家たちの作品を一堂に紹介しています。

ところで、滋賀県には3人の工芸の人間国宝重要無形文化財保持者。故人を含む)がいます。紬織の志村ふくみ、京友禅森口華弘、そして鉄釉陶器の清水卯一です。今回紹介する清水卯一(1926−2004)は京都に生まれ、人間国宝作家・石黒宗麿に師事した後、滋賀県の湖西(現在の大津市)に窯を構えて、そこで採れる鉄分の多い土を用いた「鉄釉陶器」の研究開発に生涯打ち込み続けた陶芸家です。

一口に「鉄釉」と言っても、清水卯一の作る作品は非常にバラエティ豊かな色と質感を持っています。これは清水が鉄という素材を徹底的に研究し抜き、わずかな成分配合の違い、わずかな焼成温度の違いによって生まれる多彩な表現を、残らず我が物にしたからに他なりません。
例えば上の作品「鉄釉柿十文字大鉢」に見られる柿色と黒色ですが、これは鉄がさびた時の褐色(赤さびの色)と、鉄を加熱して黒く変色した時の色(鉄びんなどに見られる黒さびの色)をうまくコントロールしたものです。鉄を酸化させた時に生まれる「酸化焼成」の色です。

ところが上の作品「青瓷茶碗」は同じ鉄釉でも、美しい青色に発色しています。しかも陶器の表面に、複雑なひびの模様が一面に入っています。
これは「青磁」と呼ばれる焼き方で、陶器を焼く際に窯の蓋を閉めて蒸し焼きにして作る、還元焼成による発色です。蓋が閉まっているので焼成時に酸素が不足気味になり、陶器に含まれていた酸素がどんどん消費されて無くなってゆく(酸化の反対の反応だから還元)ことによって生まれる色彩なのです。焼成後、高温になった窯の蓋を開けた瞬間、冷たい外気に触れて陶器の表面が収縮し、ピキピキと音を立ててこのような複雑な模様ができあがるのです。

このように清水卯一は同じ鉄釉を使いながら、さまざまな技法を駆使してバラエティ豊かな作品を次々と生み出しました。もちろん鉄釉以外の釉薬を用いることもあり、例えば上の作品「鉄耀掛分扁壺」は、グレーの土の上に黒い鉄釉を掛け、その上からさらに白い長石釉(磁器の主成分である長石を用いた釉薬)を掛けて、指の先で模様を描いたものですが、白と黒の単純明快な組み合わせの妙に、軽妙洒脱な描き模様の味わいが加わって、なんとも言えない味わいを生み出しています。

このような清水卯一の作品が、今回の展示では15点も展示されています。滋賀県ゆかりの偉大な作家の精髄に触れるまたとない機会です。ぜひご来場下さい。

初夏の常設展は6月27日(日)までの開催。観覧料は一般(おとな)450円(360円)、高大生 250円(200円)、小中生は無料です。( )内は20名以上の団体料金です。
清水卯一の他にもさまざまな作品がお待ちいたしております。