常設展『新収蔵品を中心に』の見どころ紹介(1)

2月5日(土)から始まった初春の常設展示のうち、現代美術部門の『アメリカ★アメリカ★アメリカ』と並ぶもうひとつの展示、日本画・郷土美術部門の『新収蔵品を中心に』の見どころについて、シリーズでご紹介してゆきます。展示作品の一部は以前にもご紹介いたしましたが、このシリーズでは前回紹介しきれなかった作品の中から、主なものを見てゆくことにいたします。

上の写真は大津市の出身で、明治後半から昭和初期にかけての京都画壇をリードした巨匠、山元春挙(やまもと・しゅんきょ)の「柳塘寒月図(りゅうとうかんげつず)」(寄託品)です。“塘”とは堤防のことで、この場合は川のほとりの土手を指しています。春挙の作品は1904年から05年にかけての渡米体験が契機となって大きく変貌を遂げます。1907年頃からそれまでの伝統的な画風に代わって、巨大で人間を圧倒するような大自然の迫力をテーマにしたロマン派的な作品が増えてきます。その代表と言える作品が、現在高島屋史料館が所蔵している「ロッキー山の雪」(1908)です。

今回当館で公開しているこの作品は1907年頃の作品と考えられ、やはり自然の厳しさがテーマになっています。巨大な力に打ちのめされたかのように柳の木が水平方向に向かって伸び、作品全体を寒々とした寂寥感が満たしています。この寂寥感は日本の伝統的なわびさびや無常観などを越えて、西洋のロマン派の作品などと共通した、自然の厳しさを前にした時の空恐ろしくなるような気分と似たものがあります。それは作品の中に人間存在の矮小さと、大自然への畏敬の念が表現されているためです。この気分を強調するために、上の写真でわかるように作品の中には、小さな烏のような鳥の姿が描き込まれています。鑑賞者はこの烏に感情移入してその目を通して風景を見ることによって、大自然のとほうもないスケールを実感するとともに、自らの矮小さを自覚させられるのです。なおこのように作品の中に小さな生き物を描くことによって大自然のスケールを表現する手法は、春挙の作品に晩年まで共通して見られるものです。

山元春挙とならんで京都画壇の両雄と称されたのが、皆さまもよくご存知の竹内栖鳳(たけうち・せいほう)です。当美術館にはこれまで栖鳳の作品は、寄託作品1点(「柳下追牛図(りゅうかついぎゅうず)」)があったのみでしたが、今回2点目の作品として上の写真「苑池白鷺図(えんちはくろず)」の寄託を受けることになりました。栖鳳は伝統的な四条派の画法をベースに、西洋の写実主義の手法などを大胆に取り入れて日本画の革新を図った画家で、特に動物画においては「動物を描けばその匂いまで描く」といわれたほどの達人でした。

この作品も小品ながら、栖鳳の動物画の魅力が溢れた秀作です。ピンク色の芙蓉の花が咲く夏の日、池のほとりで餌をあさったり羽繕いをしている三羽の鷺が描かれています。その姿は綿密な写生観察を踏まえて描かれたもので、白鷺という言葉から感じられる優美さとは異なった、野生動物の体臭すら感じさせる極めてリアルな姿です。こうした西洋画的な写実主義が、日本画の装飾的な画面の中に見事に融合して独特の格調高い世界を作り上げているところに、栖鳳の動物画の魅力があります。

昭和初期までは、山元春挙竹内栖鳳はともに並び称される存在でしたが、現在は栖鳳の名声の方が優ってしまい、春挙の名前がその陰に隠れてしまった感があります。それは栖鳳の弟子たちの中から、西山翠嶂(にしやま・すいしょう)、西村五雲(にしむら・ごうん)、土田麦僊(つちだ・ばくせん)、小野竹喬(おの・ちっきょう)、橋本関雪(はしもと・かんせつ)といった、次代の京都画壇をリードした名だたる巨匠たちが次々と輩出したからだと言われています。上の写真の作品「ふり袖」(寄託品)を描いた上村松園(うえむら・しょうえん)も栖鳳の弟子のひとりで、女性として史上初めて文化勲章を受章した美人画家の巨匠です。松園は京都の伝統的な文化や風俗を踏まえ、気品に溢れた美人画を次々と描きました。その中にはいかにも女性作家らしい生活の匂いや、女の情念なども描き込まれていることがあり、彼女の作品を単なる美人画にはとどまらないものに昇華しています。

今回新しく寄託を受けた「ふり袖」はタイトルが示すように、振り袖の着物を着たまだ若い娘が出歩く姿が初々しく描かれた可愛らしい作品です。うっかり地面に落としたのでしょうか、扇子と糸が足元にからまって娘が振り返る姿の中に、匂い立つような爽やかな色気が表現されています。髪やかんざし、化粧の精緻な表現などにも目を見張るものがあります。松園の作品の魅力を凝縮したかのような秀作です。

今回は京都画壇の作品をご紹介いたしました。次回は東京の日本美術院で活躍した画家たちの作品を取り上げてご紹介いたします。


■常設展示「新収蔵品を中心に」 2月5日(土)−4月3日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料
 ( )内は20名以上の団体料金。
※常設展示「アメリカ★アメリカ★アメリカ」(2月5日(土)−4月3日(日))と併せてご覧いただけます。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。