春の常設展示が始まりました

4月5日(火)から新しい常設展示がオープンいたしました。日本画・郷土美術部門の展示室では「滋賀の工芸」、現代美術部門の展示室では「マチスピカソ」と題した展示が開催中です(いずれも6月26日(日)まで)。

「滋賀の工芸」は、古都京都に近いこともあり古くからあまたの工芸作家を輩出してきた滋賀県ゆかりの工芸作家たちの作品を、一堂に会して展示するもので、紬織(つむぎおり)の志村(しむら)ふくみ(近江八幡市出身)、友禅着物の森口華弘(もりぐち・かこう)(守山市出身。故人)、鉄釉陶器の清水卯一(しみず・ういち)(大津市で活躍。故人)という、3人の人間国宝(重要無形文化財保持者)作家の作品を中心に、11名の作家の作品44点を展示しています。最大の見どころはやはり、女性に人気の高い志村ふくみの優美な紬織着物がズラリと並んだ展示(写真上)で、彼女のライフワークである「源氏物語シリーズ」からも「葵」「須磨」「花散里」などが展示されています。

また展示しきれなかった着物のエッセンスを伝えるかのように、紬織のハギレを作品として集めた「裂の筥(きれのはこ)」(写真上)が展示され、志村芸術の精髄を楽しむことができます。

志村ふくみ以外では、色とりどりの鉄釉陶器が並ぶ清水卯一の作品展示(写真上)も見ごたえのある内容となっています。また滋賀県を代表する信楽焼からは、古信楽に通じる野性的な重厚さを持った高橋楽斎(たかはし・らくさい)の作品と、明るく洗練された茶陶の美を感じさせる上田直方(うえだ・なおかた)の作品が展示され、その他、京焼の伝統を踏まえた安田全宏(やすだ・ぜんこう)の陶芸作品や、自然のリズムを感じさせる杉田静山(すぎた・じょうざん)の竹工芸による花籠などの作品、モダンな造形感覚を見せる酒井栄一(さかい・えいいち)の刺繍作品など、見どころいっぱいの展示となっています。

一方、現代美術部門の「マチスピカソ」では、タイトルどおり20世紀前半のヨーロッパ美術を代表する2人の巨匠、アンリ・マチスパブロ・ピカソの版画作品を中心として、ヨーロッパ美術の名品52点を展示しています。なおこれはセットになった作品を1点と数えての数字であり、実際の展示作品数はもっと多く、展示室の中いっぱいに額装された作品がひしめき合っています(写真上)。マチスの版画による連作3セットを一挙に見ることができるのが今回の見どころのひとつであり、一人のモデルのくるくる変わる表情を速筆のクロッキーで次々に作品に仕上げた「面ざし」や、ギリシア神話のロマン溢れる世界をリノカット版画による黒と白の鮮烈な画面に表現した「パーシパエー ミノスの歌」、そして15世紀フランスの典雅な宮廷詩人の誌を装飾的なモチーフで優美に飾った「シャルル・ドルレアン詩集」という、まったく傾向の違う作品群を通してマチス芸術の幅広さをご堪能いただけます。またステンシル版画による壁画サイズの巨大な「オセアニア 海」「オセアニア 空」(写真右の奥の作品)を並べて展示しているのも今回の目玉となっています。

マチスピカソ以外にも、抽象絵画の父と呼ばれるワシリー・カンディンスキーや、ロシア・アバンギャルドの雄カジミール・マレーヴィチ、そして戦後のヨーロッパ美術を代表する作家であるスペインのアントニ・タピエスやフランスのイブ・クライン、アメリカ抽象表現主義の始祖とも言うべきアルメニア(当時はトルコ領)出身のアーシル・ゴーキーの貴重な作品など、ユニークな作品群を見ることができます。また昨年度の新収蔵品として、昨年夏に当館でも企画展を開催して好評だったロシア構成主義を代表する芸術家夫妻、アレクサンドル・ロトチェンコとワルワーラ・ステパーノワの作品を初めて展示するのも、本展示の大きな目玉と言えましょう。ロトチェンコの作品4点はソ連邦成立後に彼が傾倒した写真による作品であり、ステパーノワの作品は彼女が理想と考えた“民衆のための芸術”を代表する、テキスタイル・デザイン2点(写真下)です。いずれもこの2人の前衛芸術家のエッセンスを伝える、貴重な作品群です。

次回から、この両展示の見どころについて詳しくご紹介してゆく予定です。ご期待下さい。


■常設展示「滋賀の工芸」「マチスピカソ」 4月5日(火)−6月26日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料 ( )内は20名以上の団体料金。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。