「珠玉のヨーロッパ絵画展」の見どころご案内(5)


好評開催中の企画展「珠玉のヨーロッパ絵画展−バロックから近代へー」の見どころを紹介するシリーズの、第5回。今回は19世紀の近代絵画の中から、以前ご紹介することができなかった作品を数点取り上げて、同展の見どころを解説いたします。

上の図版はイギリスの画家アルフレッド・ド・ブリーンスキーの「湖の風景」。ウェールズスコットランドの山岳風景、特に高地の湖の夕暮れの景色を描くのを得意とした画家です。この作品にも白鳥が遊ぶ静かな湖と、そのほとりに立つ紅葉したカシの巨木が、ロマン派的な情緒溢れるタッチで描き出されています。見渡す限り手付かずの無垢な自然の姿です。19世紀の人々は都会の喧騒から離れて、自然の中に癒しを求めようとし、このような美しい風景画がもてはやされました。ですから近代の風景画の中には当時の人々の価値観や精神世界が倒影されていると言っても過言ではありません。

自然への憧れはまた、人々が森や自然の中で食事や憩いを楽しむ「ピクニック」という娯楽を一般化させました。上の作品はベルギーの画家エドゥアール=ジャン・コンラッド・アマンの「家族のピクニック」で、海辺に近い森の中にピクニックにやって来た上流階級の家族たちを描いたものです(17世紀頃のファッションで描かれています)。手前には木陰で語り合う男女、ワッフルを食べる子ども、赤ん坊に授乳する母親、そして読書をする男が描かれ、その向こうには笛を吹く男と昼寝をする男が、さらに奥にはボウガン(石弓)で鳥を撃とうとしている男たちの姿が見えます。昔のピクニックの様子がどのようなものであったのか、よくわかる作品です。

上も同じくピクニックの様子を描いた作品で、ロシアの画家ニコライ・コルニロヴィッチ・ボダレフスキーの「ヒバリの歌」です。色とりどりの花が咲きこぼれる、河のほとりの初夏の草原。上流階級の3人の女性と一匹の犬が、寝そべったり座ったりしてのんびりくつろいでいます。延々と拡がる地平線、淡い空の色が、北国ロシアの雰囲気を見事に伝えています。白いドレスの女性は空にある何かを見上げているようですが、おそらく彼女が見ているのはタイトルの通りさえずりながら空を飛ぶヒバリの姿なのでしょう。


近代の風俗画作品には、さまざまな国の民族色を生かした作品が数多くあります。これは19世紀という時代が、大国の支配下にあったヨーロッパ中小諸国の独立に向けての機運を育んだ「民族の世紀」であったことと関係しています。事実、絵画だけでなく音楽や詩、民話の採取などさまざまな芸術分野で、民族色豊かな取組みが行われました。また蒸気機関などの交通手段が発達して、上流階級の人々が気軽に海外旅行を楽しめるようになったことも、さまざまな観光地やその土地の風俗を描いた作品の流行へと繋がりました。

上の作品はロシアの画家ニコライ・アンドレヴィッチ・コシェーレフの作品「脱穀場の子供たち」です。5人の幼い少女たちが、脱穀場に積み上げられた藁のそばで遊んでいるという、なんとも微笑ましい作品です。この作品の中に、当時の都会に住む人々が持っていた「農村や自然への憧れ」とともに、5人の少女が着ているロシアの民族衣装に代表されるような「民族色への興味」を見出すことは、それほど難しいことではありません。


農村への憧れは同時に、上流階級の人々が下層階級の人々へと向けた、興味と憐憫のまなざしでもありました。貧しい人々の暮らしや、その悲劇的な運命を描いた作品がもてはやされるのも珍しいことではありませんでした。

上の作品は破産したある不幸な一家の運命を描いた、スイスの画家シェリュバン・パタの作品「競売」です。家財道具が町なかの広場に積み上げられ、競売に付されています。右端には競り落とした品物を持ち帰る人々も描かれています。画面左端で、破産管財人が鍵をかけている家が破産した一家の元の住居で、家を追い出された家族たちはその奥の木の陰で悲嘆にくれています。極端な横長の画面にパノラミックに描いてあるため、可哀そうな一家に対するセンチメンタルな共感よりも、町の人々のさまざまな態度を中立的に見つめるクールな視線の方が際立っている、面白い作品です。
今回ご紹介した作品以外にも、「珠玉のヨーロッパ絵画展」にはまだまだ興味深い作品がいっぱい展示されています。初夏の行楽シーズンにあわせて、ぜひご来場下さい。展覧会は6月12日(日)まで開催しています。


『珠玉のヨーロッパ絵画展−バロックから近代へー』
◆会 期:2011年4月16日(土)−6月12日(日)
◆観覧料:950円(750円)、高大生 650円(500円)、小中生 450円(350円)
     ( )内は前売および20名以上の団体料金
◆展覧会構成:油彩画 58点
 第1部 バロック絵画(17世紀を中心に):宗教画 19点、世俗画 7点
 第2部 近代絵画(19世紀を中心に):肖像画 10点、風景画 8点、風俗画 14点

★企画展の観覧券で、常設展「滋賀の工芸」「マチスピカソ」もご覧いただけます。
★毎日、午後1時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。