「色と墨のいざない−出光美術館コレクション展−」の見どころ紹介 その4


ただいま好評開催中の企画展「色と墨のいざない−出光美術館コレクション展−」は、いよいよ今月11日(月・祝)限りです。お見逃しなく!
同展の見どころを紹介するシリーズの第4回。今回はこれまでご紹介できなかった出品作品の中から、特にユニークなものにスポットを当ててみます。

上の写真は室町時代に描かれた「白描中殿御会図」という絵巻物の一部です。タイトルの中殿(ちゅうでん)とは宮中清涼殿のことで、中殿御会(ぎょかい)とは天皇の即位後にここで初めて行われる、管弦を伴った公式の和歌(あるいは漢詩)の席のことです。この作品はその席に集まった貴族たちの姿を、白描(はくびょう)、すなわち着色せずに墨の線だけで描いた作品です。
貴族の姿をひとりひとり見てゆくと、痩せていたり太っていたり、眉や頬のかたちに特徴があったりと、モデルである貴族の姿にできるだけ似せようとして描かれていることがわかります。このような写実的な描き方は似絵(にせえ)と呼ばれ、神護寺にある有名な源頼朝像と伝えられる作品も、この似絵の代表的なものとされています。簡素な表現ながら、人物描写を徹底して追求したユニークな作品だと言えましょう。

上の作品は江戸時代末期に田中訥言(とつげん)が描いた「異形(いけい)賀茂祭図巻」という楽しい作品。賀茂祭(葵祭)はご存知のように、5月に京都で行われる有名な祭礼で、平安時代の衣装をまとった人々が京都御所から下賀茂神社を経て上賀茂神社まで行列する「路頭(ろとう)の儀」でよく知られています。この作品では人間の代わりに、動物やもののけたちがぞろぞろと行列をなして歩くさまが、長さ13メートルを超える絵巻物に延々と描かれています。「鳥獣人物戯画」や「百鬼夜行絵巻」などとの類縁性も感じさせるユーモラスな作品です。

上の作品は江戸時代中期に描かれた「群仙図屏風」の一部です。この作品、六曲屏風一双のうち右隻を岸派の創始者・岸駒(がんく)が、同じく左隻を四条派の祖とされる呉春(ごしゅん)がそれぞれ担当し、競い合って描いたというもので、円山応挙と肩を並べた京都画壇の巨匠たちによる競演を楽しめるユニークな作品です。
図版は岸駒が描いた右隻の一部です。細かく震えるような描法で迫力たっぷりに動物や人物を描き出すのが岸駒の作品の特徴ですが、そうした特徴はこの作品にもよく表れています。一方の呉春は円山派の写生と文人画(南画)の叙情性を融合させた風雅な画風を特徴としており、両者の画風の対比も見どころのひとつとなっています。この2つの画面を比べて鑑賞したい、という方は、ぜひ展覧会に足をお運び下さいね。

最後に上の小さな作品を見て下さい。これは実は、浮世絵師として有名な葛飾北斎が水墨で描いた「亀と蟹図」で、木版で大量生産される浮世絵版画とは異なり、北斎が自分の手で描いた1点限りの“肉筆画(にくひつが)”です。北斎は若い頃、狩野派琳派文人画、洋風画など様々な画派に就いて絵を学んでおり、この作品の手慣れたタッチにもそうした研究の成果が生かされています。巨匠の意外な側面を見ることができる、興味深い作品ですね。

今月11日(月・祝)まで開催される「色と墨のいざない−出光美術館コレクション展−」には、今回ご紹介したものの他にもまだまだ多くの興味深い作品、素晴らしい作品がいっぱい展示されています。芸術の秋に合わせて、ぜひ当館にご来館下さい。


「色と墨のいざない−出光美術館コレクション展−」
会期:9月11日(土)−10月11日(月・祝)
観覧料:一般 950円(750円))、高大生 650円(500円)、小中生 450円(350円)
    ( )内は前売および20名以上の団体料金。
企画展の観覧券で常設展「横山大観と仲間たち」「赤と黒」も観覧できます。