「珠玉のヨーロッパ絵画展」の見どころご案内(2)


月16日(土)から始まった春の企画展「珠玉のヨーロッパ絵画展−バロックから近代へー」の、見どころをご紹介するシリーズの第2弾です。今回は19世紀の近代美術の中から、風景画作品についてご紹介いたします。

西洋画においては15世紀頃まで、風景画は独立したジャンルではありませんでした。風景が描かれることがあっても、それは宗教画の中で人物を描く際の、単なる舞台でしかありませんでした。盛期ルネサンスと呼ばれる16世紀前半頃からようやく、画家たちは風景の魅力に目を向けるようになり、17世紀のバロック美術において、風景画というジャンルが確立します。19世紀の近代になると市民社会の拡大とともに風景画がもてはやされるようになり、観光名所や田園風景など、当時の人々の好みに合った作品が数多く制作されるようになりました。

上の作品はフランスの画家ギュスターヴ・ルイ・リカールの作品「地中海の夏祭りを祝う娘達」です。陽光まぶしいイタリアの水の都ヴェネツィアの風景で、ゴンドラに乗った女性や子供達が、海中に据え付けられた祠に花束を捧げようとしています。この祠は、ヴェネツィアの町のいたるところに見られる聖母マリアの祠のひとつで、海難除けを祈願するためのものだと思われます。明るい空の色を映し出した水面のきらめき、海面近く低く飛ぶカモメの群れ、遠景に蜃気楼のように浮かび上がるヴェネツィアの町並み、どこか夢の中の世界を思わせる詩情に満ちた画面で、単なる観光地を描いた風景画にとどまらない清新な魅力に溢れています。作者のリカールはオールド・マスターの作品を熱心に研究し、正統的でアカデミックな技量を身につけた画家です。彼らアカデミー系の画家たちは、写実主義印象派などの華やかな活躍の影で長らく忘れられた存在でしたが、近年になって再評価の気運が高まっています。

上の作品はイギリスの画家ジェイムズ・スタークの「森の中の風景」。森の中を流れる川のほとりで休息を取る3頭の牛と、牛飼いの少年が描かれた、平和で牧歌的な作品です。背景には一軒の農家が描かれ、自然と人間が仲良く共存している理想的な世界を、写実的にかつ親しみやすいタッチで描いています。産業革命により近代化・機械化が一気に進んだイギリスは、一方で18世紀末から19世紀初頭にかけて、ロマン主義的な自然への憧れの機運が高まった国であり、ターナーやコンスタブルといった巨匠を輩出して風景画の先進国となりました。スタークはこの2人に続く世代の画家で、その作風は17世紀オランダの写実的な風景画の伝統を受け継ぐものでもあります。

上の作品はどちらかと言えば風俗画の範疇に属する作品ですが、戸外の風景が生き生きと描かれているためここで取り上げます。オーストリアの画家エルンスト・ベルガーの「庭で編物をする女性」という作品で、中産階級らしき清楚な服装の女性が、庭先に置かれた椅子に座って熱心に編物をしているようすが描かれています。女性の目の前のテーブルには糸玉のほかに本や庭で摘み取った花が、傍らの椅子にはバスケットと傘が置かれ、優雅でのどかな昼下がりのひとときを、明るいタッチで爽やかに描き出しています。当時の中産階級の人々の暮らしぶりや価値観が伝わってくるようです。ベルガーは色彩技法の研究に勤しんだ画家で、当時の印象派の絵画も研究しました。その成果はこの作品の、春の柔らかい日差しを見事に表現した、計算された光の効果に生かされています。

本展でご紹介する風景画作品はこのように、伝統と革新のはざまで当時の人々の好みに合わせて生まれた、様々な形式のものが展示されます。
次回は近代の風俗画作品についてご紹介いたします。


『珠玉のヨーロッパ絵画展−バロックから近代へー』
◆会 期:2011年 4月16日(土)−6月12日(日)
◆観覧料:950円(750円)、高大生 650円(500円)、小中生 450円(350円) ( )内は前売および20名以上の団体料金
◆展覧会構成:油彩画 58点
第1部 バロック絵画(17世紀を中心に):宗教画 19点、世俗画 7点
第2部 近代絵画(19世紀を中心に):肖像画 10点、風景画 8点、風俗画 14点

★毎日、午後1時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。