「夏休み子ども美術館」の見どころ紹介(2)


6月28日(火)から始まる夏期常設展示「夏休み子ども美術館:アートはヒミツのかくれんぼ」の展示内容をご紹介してゆくシリーズの、第2回です。今回も前回に引き続き、作品の中に隠されたものやかたちを「みーつけた!」してゆきましょう。今回はちょっと推理力や観察力を試される作品ばかりですよ。

上の写真はアメリカのポップ・アートの作家クレス・オルデンバーグの1966年制作のマルチプル(複数制作された作品)、「ロンドン・ニーズ1966」です。実はこの作品は、人間の身体の一部分だけを作品にしたものなのですが、(1)それは身体のいったいどこでしょうか? (2)その人間はいくつくらいの、どちらの性別の人間でしょうか? (3)服装はどのようなものを着ていたと思いますか? 作品をよく見て想像して下さい。

正解は、(1)ひざ(英語で“ニー”)、(2)若い女性です(内またの細い膝小僧でわかります)。(3)オルデンバーグが撮影した上の写真のような、ミニスカートをまとい、膝丈までのブーツを履いた姿。です。ミニスカートは1960年代後半の大流行ファッションで、日本にも1967年のツィッギー(モデル)の来日をきっかけに若い女性たちの間に爆発的なブームを巻き起こしました。現代の世相を大胆に作品に取り入れるオルデンバーグは、ミニスカートとブーツの間の生足の部分だけを取り出し、作品化したのです。一見、何を表わしているのかわからない作品ですが、タネが割れてみると当時のファンションが鮮やかに眼前に蘇ってくるという、面白い作品です。この「ミニスカートとブーツの間の生足の部分」というイメージが気に入っていたオルデンバーグは、巨大な膝小僧を並べて橋げたのような構造物を作るという下のイメージスケッチ「膝の橋(ニー・ブリッジ)」のような、巨大な公共彫刻のアイディアも抱いていたそうですが、実現することはありませんでした。



オルデンバーグと同じく、制作当時の世相をイメージとして作品の中に取り込んだのが上の写真、ロバート・ラウシェンバーグの「無題」です。新聞や雑誌から切り抜いた雑多なイメージを、シルクスクリーンによって作品の中にコラージュした版画作品で、制作年は1972年。ベトナム戦争の最末期で、学生運動や黒人暴動のピークがようやく過ぎ、人々が時代の節目を感じ始めた頃の産物です。作品の中をよく観察すると、火を吹き上げる海底油田、撤退する兵士たちの列、ヌーディスト村、自転車に乗るニューファミリーの夫婦など、当時の世相を反映したさまざまなイメージが渾沌になって溢れ出るかのようです。

それでは問題です。この作品の中に、上の写真のイメージ(機械の一部)がありますが、一体どこにあるのでしょうか?

正解は上の写真の、黄色い○の部分。これは1950年代末にドイツで発明され、日本の自動車メーカー・マツダが実用化に成功した「ロータリーエンジン」で、作品の中に4つ並んでいるのが見えます。この他にも、作品の中にはさまざまな興味深いイメージがいっぱい詰まっていますので、当時の世相に詳しい人と一緒に見てゆくときっと楽しいですよ。

次の作品は近代日本画日本美術院の画家・中村岳陵(なかむら・がくりょう)の「黄昏時」(写真上)です。同じ院展速水御舟(はやみ・ぎょしゅう)が描いた「洛北修学院村」(滋賀県立近代美術館蔵)から強い影響を受けたとおぼしき、神秘的な群青色の色彩が印象的な作品です。
では問題です。だんだん難しくなってきますよ。(1)この作品の中に動物がいますが、いったいどこにいるでしょうか? (2)黄昏時の風景であることは、どんなところからわかりますか?

答えは次のとおり。(1)上の拡大図(右側)でわかる通り、画面のいちばん下中央に、ごみ箱を漁っている黒い野良猫の姿が描かれています。金色の鋭い目がとてもチャーミングです。(2)人家の周囲が暗く、家の中には明かりが点いているのに(拡大図の左側参照)空がまだ少し明るいことと、煙突から夕げの煙が立ち昇っているところから、夕方(黄昏時)の風景であることがわかります。

次の作品は三宅凰白(みやけ・こうはく)の「琉歌(りゅうか)」。タイトルの通り、琉球の民族衣装(琉球かすりの着物に琉球紅型の羽織り)を着て、沖縄の伝統楽器である三線(さんしん)を手に歌っている若い女性を描いた作品です。女性の衣装だけでなく、作品の中には本土ではあまり見られない、南国特有の草花もたくさん描かれています。
それでは、次の植物はそれぞれ、絵の中のどこに描かれているでしょうか。
(1)【デイゴ】マメの仲間の大きな木で、春から初夏にかけて葉っぱが並んだような形の真っ赤な花を咲かせます。
(2)【トケイソウ】白い大輪の花で、おしべとめしべの形が複雑で時計板のように見えます。その実はパッションフルーツといって食用にされます。
(3)【シマアザミ】白い花のアザミで、タンポポに似た姿をしています。沖縄の人は野菜として食べるそうです。

正解は上の図の、(1)は黄色、(2)は赤、(3)は水色の円で囲った部分です。どうですか? 植物にあまり興味の無い方は見すごしてしまいそうですが、細かいところにまで沖縄情緒をかもし出すための工夫が施されているんですよ。

次回も、「夏休み子ども美術館」の出品作品をご紹介してゆきます。


■常設展示「夏休み子ども美術館:アートはヒミツのかくれんぼ」 6月28日(火)−9月4日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料 ( )内は20名以上の団体料金。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。