美術館の歩みを展覧会で振り返る(平成2(1990)年)


『美術館の歩みを展覧会で振り返る』の第7回は、90年代最初の年、平成2(1990)年度です。この年度も日本画から現代美術、泰西名画、写真にいたるまでバラエティに富んだラインナップとなりました。



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京都画壇巨匠の系譜 幸野楳嶺とその流派
1990年04月07日─1990年05月13日  開催日数:32日  観覧者数:10,994人
毎年春に開催していた日本画・郷土美術の特別展、これまでは滋賀県出身の画家を中心に取り上げてきましたが、今回は滋賀県ともゆかりの深い京都画壇(京都の日本画壇)の近代化に力を尽くした、幕末から明治にかけての巨匠、幸野楳嶺(こうの・ばいれい)とその一門を紹介するというユニークな内容となりました。幸野楳嶺は伝統的な丸山四条派を学びつつ、それを近代的な表現に昇華しようと努力した近代京都画壇草創期の画家で、京都府画学校(現・京都市立芸術大学)や京都美術協会の設立にも功績のあった先覚者です。絵の師匠としても、柔軟にして厳格な指導法によって竹内栖鳳をはじめとする蒼々たる顔ぶれの弟子たちを育て上げ、京都画壇の発展に貢献しました。本展示では楳嶺およびその師や弟子たちの作品に、小下絵・写生・私塾の絵手本等の関連資料を加えて、約60件を展示・公開いたしました。
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アメリカ西海岸の美術
1990年05月19日─1990年06月24日  開催日数:32日  観覧者数:7,549人
この年度の現代美術の企画展は、ウェスト・コーストの呼び名で日本人にも親しまれている「アメリカ西海岸」の美術に焦点を当てたユニークな内容でした。アメリカ現代美術はこれまで、ニューヨーク等の東海岸地域を中心として紹介されることがほとんどでしたが、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル等を含む西海岸地域は、温暖な気候と雄大な自然に恵まれ、自由の気風にあふれた独特の風土を形成し、アメリカ美術のもう一つの拠点として近年注目を集めています。本展は西海岸の抽象美術の先駆者ともいうべきジョン・マクロフリンから始まり、サム・フランシス、エド・モーゼス、ジョン・アルトゥーン、クレイグ・カウフマンの5人の作家を、5つの個展が連なる形式で紹介いたしました。なお総展示点数は計43点でした。
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写真展 ヘルムート・ニュートンポートレート
1990年06月30日─1990年08月05日  開催日数:32日  観覧者数:8,116人
当館に限らず日本の美術館は、新しい客層の開拓などを目的として、絵画や彫刻だけではなく時おり写真の展覧会を開催することがあります。当館が(昭和59年度の「マン・レイ展」を例外として)最初に開催した写真展が、ドイツ出身のファッション写真家、ヘルムート・ニュートンを取り上げた本展でした。ニュートンは1950年代半ばから『ヴォーグ』『プレイボーイ』等の有名雑誌に挑発的なファッション写真を発表し、近年は有名人をモデルにした肖像写真の分野でも意欲的な活動を続けている写真家で、綿密な計算と巧みな演出によって作り出された虚構の人工世界を舞台に、頽廃的・官能的で豪奢な魅力と、危険な死の匂いを発散する独特の世界観で人気を博しています。本展は127点の代表作によってニュートンの世界を紹介する、わが国初の回顧展でした。
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オリエンタリズムの絵画と写真
アラビアン・ナイトの幻想−
1990年08月11日─1990年09月16日  開催日数:32日  観覧者数:8,127人
この年度は本展と、ラストを飾った「ウルビーノの宮廷美術展」の2本、泰西名画展を開催いたしましたが、本展は西洋近代美術の中の“オリエンタリズム(東方趣味)”に焦点を絞った極めてユニークな展覧会として異彩を放つものとなりました。19世紀の西欧では、ナポレオンのエジプト遠征をきっかけにして熱狂的な中近東ブームが広まり、美術の世界でもアカデミーの作家たちを中心にオリエンタリズムの傾向を持った絵画が数多く描かれるようになりました。本展は19世紀オリエンタリズムが美術の分野に果たした役割を、絵画・写真の両面から検証しようとするわが国初めての試みで、オリエンタリズムの絵画54点、写真61点に、オリエンタリズム絵画の温床となったアカデミーの画家たちの作品、同時代の風景画家の作品、幻視的な異色画家ギュスターヴ・ドレの作品など45点を加え、さらに現代日本の写真家たちによるオリエンタリズムの作品35点を含めた計195点もの作品を一挙に展示するというボリュームたっぷりの展示となりました。
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模写の魅力 巨匠が学ぶ日本の名画
1990年09月22日─1990年10月28日  開催日数:32日  観覧者数:9,224人
毎年秋恒例の日本画の企画展、この年度は「模写」をテーマにしたきわめてユニークな内容で開催いたしました。模写と聞くとどうしても贋作だとか創造性の欠如だとか、マイナスのイメージを抱いてしまいがちですが、そもそも模写は中国の画論に現れる「画の六法」のうちのひとつで、過去の名画を研究し、その精神を習得するために欠かせないものでした。日本においても、特に江戸時代の狩野派などの流派が形成される上で大きな役割を担いましたし、明治以降も文化財保護の精神から、また古画の筆法研究を目的として、多くの画家たちが過去の名画の模写を行ない、それを基礎として自らの様式を形成していったのです。この展覧会ではこれまで軽視されがちであった模写の意義を再認識し、日本の絵画史の一面を捉え直してみることを目的として、明治時代の作品を中心に重要文化財3件を含む、52件の作品を展示・公開いたしました。
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埼玉県立近代美術館所蔵名作展
−フランス近代美術と埼玉ゆかりの画家たち−
1990年11月03日─1990年12月16日  開催日数:39日  観覧者数:7,430人
昭和63年度の「パスキンとエコール・ド・パリ 巴里の詩」展に続く、他館のコレクションを紹介する展覧会で、今回は埼玉県立近代美術館が所蔵する、フランス近代美術と日本の近代洋画の名作約70点を展示し、近代洋画の流れをフランスと日本の両面からたどることを試みました。埼玉県立近代美術館は昭和57年の開館。埼玉は森田恒友斎藤与里といった日本を代表する洋画家たちを多数輩出した土地柄で、この館では彼ら埼玉ゆかりの洋画家をはじめ岸田劉生佐伯祐三ら関連する画家たちの作品、そして彼らに影響を与えた印象派からエコール・ド・パリにいたるフランス近代美術の作品を系統的に収集しています。この展覧会では日仏の作品を突き合わせるように展示することによって、その影響関係を明らかにしようと試みました。
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シガ・アニュアル '91
自己との遭遇 −パリに学んだエスプリ−
1991年01月05日─1991年02月11日  開催日数:33日  観覧者数:3,677人
日本の現代美術の様々な局面を、数名の若手作家を中心にテーマ別に紹介する「シガ・アニュアル展」の第5回展です。今回は「自己との遭遇−パリに学んだエスプリ−」をテーマに、1970年代にパリの美術学校で学び、80年代以降着実な創造活動を展開している4人の作家−コリン・ミノル、立山正一、中島千剛、渡辺良雄−を紹介いたしました。この4人はいずれもパリに留学し、現代美術の中に生き続けている西洋文化の伝統と直面・対決するなかで、自己のアイデンティティーを模索・確立していった作家たちです。とかく流行のムーヴメントに惑わされ、素材の新奇さや造形の面白さのみを追求しがちなのが現代の美術の風潮ですが、その中で自己のテーマを真摯に追求し、自分に見合った表現方法で創作に取り組んでいるこうした作家を紹介することによって、地味ながら現代美術の在り方に一石を投じる展覧会となりました。
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イタリア・ルネサンスの華 ウルビーノの宮廷美術展
1991年02月16日─1991年03月17日  開催日数:26日  観覧者数:11,045人
この年度最後の展覧会は、ルネサンス時代の宮廷美術を取り上げたゴージャスな泰西名画展となりました。ラファエロの生地として知られるイタリア中部の町ウルビーノは、ルネサンス期にウルビーノ公国の首都として栄え、ヨーロッパで最も洗練された宮廷文化のひとつが花開いた町でもありました。本展は、歴代のウルビーノ公のために制作された作品、およびウルビーノの宮廷で活躍し、ウルビーノ公と何らかの関わりをもった芸術家たちによる、絵画、彫刻、陶器、工芸作品など様々なジャンルにわたる計43点の作品を通して、15世紀半ばから約2世紀にわたってウルビーノとペーザロの町を中心に栄えた、ルネサンス時代の華麗な宮廷美術を紹介いたしました。日本人には馴染みの薄い時代の作品でありながら、1万人を超える来館者で賑わいました。
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