常設展示「琵琶湖逍遥」の見どころ紹介 その2

11月2日(火)から始まった日本画・郷土美術部門の展示「琵琶湖逍遥」の内容を紹介するシリーズの、第2弾です。

本展示では琵琶湖を中心とした滋賀県の風景を描いた作品、15点を展示しています。その代表的なものは前回紹介した「近江八景」ですが、本展示ではそれ以外に、湖国滋賀の風景を愛情込めて描いたさまざまな洋画・日本画作品も展示しています。

上の写真は以前も紹介した、長浜市出身の京都の日本画家、沢宏靱(さわ・こうじん)による「古里の山」。長浜から見えるふるさとの山・伊吹山を、月光に映える白銀の山として神々しく描いた作品です。余分な要素を剥ぎ取ったシンプルな構成と、宗教絵画を思わせる左右対称の構図が、作品にスケール感と神秘性を与えています。

この「古里の山」と、上の写真(川島浩(かわしま・ひろし)の「野洲(やす)川」)を比較してみると、幾つも類似性があることに気付かれる方も多いでしょう。どちらも中空にかかる天体を中心とした、ほぼ左右対称のシンプルな構成で、奥行きとスケール感を強調しています。またちっぽけな人間存在の痕跡をほとんど感じさせず、悠久の太古から同じ風景がずっと続いているのだという大自然の偉大さ、荘厳さを意識させてくれます。

上の「深緑の島」を描いた中路融人(なかじ・ゆうじん)は、滋賀の風景を愛し、水墨画を思わせる禁欲的な色彩で、湖北地方を中心とした滋賀の風景を描き続けた京都の日本画家です。この作品は錆色の湖面に浮かぶ竹生島(ちくぶじま)の姿を、空を飛ぶ鳥の視点から描いたものですが、“神の住まう島”の荘厳な雰囲気が、シンプルな構成の中に見事に描き出されています。

続いて洋画作品を紹介しましょう。上の作品は鹿児島県出身で、日本の洋画黎明期に外光派的な写実主義を広めるのに貢献した巨匠・和田英作(わだ・えいさく)の「静かなる鳰(にお)の湖(うみ)」。鳰の湖とは琵琶湖の別名(鳰とは滋賀県の県鳥であるカイツブリのこと)ですが、この作品の手前に描かれている大きな湖は実は琵琶湖ではなく、左手奥に描かれた彦根城の東方に昔あった松原内湖です。琵琶湖は右手の奥に少しだけ覗いています。和田英作東京美術学校で教鞭を取っていましたが、彼の教え子のひとりに滋賀県を代表する洋画家の野口謙蔵(のぐち・けんぞう)がおり、彼の元に幾度か遊びに来ては琵琶湖周辺を観光したということです。その折に描かれたと思われるこの作品は、外光派らしい明るい色彩と情感溢れる表現が特徴的です。

しかしながら和田英作の教え子であった野口謙蔵の作品は、師の作品とは似ても似つかないユニークな表現が特徴的です。左の作品「朝」は、夜明け前に葦に囲まれた水路に漕ぎ出してゆく一艘の舟を描いたものですが、ほとんど抽象絵画のように見える荒々しく自由奔放なタッチと、緑と紅を中心にした斬新な色使いが特徴的です。野口謙蔵は洋画と平行して日本画、それも奔放で洒脱な文人画を学んでおり、そうした要素が彼の作品を従来の洋画の枠に留まらせず、ユニークなものにしています。

上は“山の画家”として知られる東京出身の田村一男が描いた「比良(ひら)多雪」。近江八景のひとつとして知られる比良山系を、琵琶湖の対岸である守山近辺から描いたスケール感のある作品で、画面の半分以上を占める重苦しい冬の空と、白く輝く山体の対比が目を引きます。油絵具に日本画の岩絵具を混ぜて生み出した、独特の質感(マチエール)が異彩を放っています。


常設展示「琵琶湖逍遥」 11月2日(火)−12月19日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料
 ( )内は前売および20名以上の団体料金。
※常設展示「赤と黒」(8月31日(火)−12月19日(日))と併せてご覧いただけます。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。