館蔵品のご紹介(2) −冬を描いた作品−

今日は美術館の周囲も雪景色です。

さて美術館の冬期休館中(2月4日(金)まで)、館蔵品の中からテーマ別に興味深い作品を紹介するシリーズの第2弾。今回は「冬を描いた名作」です。

上の作品は横山大観と並ぶ初期日本美術院の巨匠・菱田春草(ひしだ・しゅんそう)の「雪後の月」です。明治30年代の春草は大観とともに、西洋画の空気遠近法(遠くのものほどかすんで見えるように表現する表現法)を日本画に取り入れようとして、地平線や水平線を描かず、ものの輪郭をぼかして茫洋とした空間を作り上げる「朦朧体(もうろうたい)」という手法の実験に取り組んでいました。この作品も朦朧体で描かれており、月光に包まれた雪景色の幽玄な風情がうまく表現されています。

同じ雪景色を描いた作品でも、春草とは対照的にダイナミックなのが、大津市出身の京都画壇の巨匠、山元春挙(やまもと・しゅんきょ)による上の作品「山村密雪図(さんそんみっせつず)」です。墨と白の絵具だけで描かれた禁欲的な画面の中に、絶え間なくしんしんと降り積もる雪、その中を飛ぶ小さな黒い鳥の群れ、そして右下には水車小屋が描かれて、冬の厳しい大自然の姿が迫力たっぷりに描写されています。山元春挙は人間を圧倒する厳しい大自然を描くのが得意な画家で、その特質はこの作品にもよく表れています。

上は大正から昭和初期の日本美術院を代表するユニークな日本画家のひとり、小茂田青樹(おもだ・せいじゅ)の代表作のひとつ「四季草花図(しきそうかず)」のうちの「冬季」です。本来は春・夏・秋・冬の4つの場面から成っているのですが、いつしか離れ離れになり、当美術館はそのうちの「夏季」と「冬季」を所蔵しています。琳派を思わせる装飾的な画面構成と、ナンテンの葉や実の描写に見られる徹底した細密描写が溶け合った意欲的な作品です。なお画面に黒い斑点のようなものが見えますが、これはもともと画面に撒かれていた銀砂子で、銀の表面が錆びて黒く変色したものです。もともとは銀色に輝いていたはずなので、その姿を想像しながら鑑賞して下さい。

上は現在も活躍中の京都の日本画家、中路融人(なかじ・ゆうじん)の「玄映(げんえい)」という作品です。融人は湖北の風景に取材し、それらを題材に多くの作品を描いていますが、この作品はかつて湖北の農村の風物詩であった、稲掛木(はさぎ)を描いたものです。稲掛木とは田の畦道にハンの木を街路樹として植え、冬になるとその木の周囲に藁を積み重ねて積み藁にするという湖北独特の風習なのですが、近年はコンバイン等の普及により、ほとんど見ることができなくなってしまいました。融人のこの作品は水の張った田んぼの水面ギリギリという低い視点から、畦道に並ぶ稲掛木の列をシルエット状に描いたもので、右上にわずかに青空が覗いているのを除けば白と黒ばかりの画面です。湖北の冬の厳しさと美しさが、詩情たっぷりに描かれています。

同じく湖国滋賀の冬を描いた作品として、現在の東近江市蒲生町出身の洋画家、野口謙蔵(のぐち・けんぞう)の「冬田と子供」(上)を最後にご紹介します。謙蔵は東京美術学校卒業後郷里に戻り、蒲生野の美しい自然と人々の素朴な暮らしを、生涯愛情込めて描き続けた画家で、作品の中に南画をはじめとする日本画の要素が色濃く入っていることから「油絵で描いた日本画」と評される独特の画風を持つ巨匠です。「冬田と子供」は昭和14年の作。稲刈りが終わった田んぼで兵隊ごっこをして遊ぶ子どもたちの姿をノスタルジックに描いた作品で、積み藁や焚き火の煙、夕暮れを告げるカラスの群れ、仕事帰りの農夫たちなど、古き良き日本の農村風景が愛情を込めて描き込まれています。

これらの館蔵品は常設展示室1(日本画・郷土美術部門)において順次公開される予定です。ご期待下さい。