常設展示「滋賀の工芸」の見どころご案内(3)

4月5日(火)から始まった新しい常設展示の中から、「滋賀の工芸」の見どころをご紹介するシリーズの、第3回です。今回は3人の人間国宝作家以外の、滋賀県ゆかりの工芸作家たちの芸術をご紹介いたします。

滋賀県を代表する工芸というと、真っ先に名前が出てくるのが日本六古窯のひとつ、信楽焼です。信楽には今も多くの陶芸作家たちが住み、伝統を踏まえつつ新しい造形を目指して作陶に打ち込んでおられます。上は三代高橋楽斎(たかはし・らくさい)の作品「信楽縄文花壺(しがらきじょうもんはなつぼ)」で、1960(昭和35)年にブリュッセル万国博覧会に出品しグランプリを受賞したものと同型の作品です。楽斎は古信楽の野性味溢れる自由な造形を現代的に蘇らせようとした作家で、荒々しく奔放な味わいに特徴があります。

上も同じ信楽の作家、五代上田直方(うえだ・なおかた)の「信楽肩衝茶入(しがらきかたつきちゃいれ)」です。同じ信楽焼といっても、楽斎に比べると直方の作品は茶陶の伝統を踏まえた洗練された美が特徴的で、明るい発色、上品な味わいが魅力的です。

信楽焼以外にも、滋賀県には多くの陶芸作家が活躍しています。上の写真は京都出身で現在甲賀市在住の、安田全宏(やすだ・ぜんこう)の作品「噴煙煙の如し」です。安田は楽焼から発展させた、京焼でも信楽焼でもない独自の陶芸を追求している作家で、赤い鮮やかな土の色と、その上に掛けられた純白の釉薬が生み出す独特の味わいに特徴があります。彼の作品のタイトルはこの作品以外にも「彩雲」や「雲駆ける」のように、自然現象から取った詩的な味わいのものが多く、独自の世界を作り上げています。

上は野洲市(やすし)在住の竹工芸の作家、杉田静山(すぎた・じょうざん)の「網代縦編花籠 飛鳥(あじろたてあみはなかご・ひちょう)」です。杉田は幼い頃に聴力を失い、それがきっかけで竹工芸を志し、ほとんど独学で滋賀県無形文化財保持者にまで昇り詰めた努力家です。特定の師匠につくことなく、日本伝統工芸展などの会場に足しげく通い、先輩たちの作品を綿密に観察して自らの技法を磨いたと言います。この作品のタイトルになっている網代縦編とは竹ひごの編み方の名前ですが、「飛鳥(ひちょう)」という副題のとおり、竹籠の表面には何羽もの鳥が群れをなして飛んでいるような文様が浮かび上がっています。極めて精緻な技術と、自然に対する詩人のような感受性が溶け合って生まれた名品です。

上は宮島勇(みやじま・いさむ)の羅(ら)による羽織着物「海流」です。羅とは平安時代の公家たちが装束や調度などに用いた有職(ゆうそく)織物のうち、織りの凹凸が光の加減によってさまざまな表情を生む、典雅な品格のある菱形の織文様のことです(羅の他にも絽(ろ)、紗(しゃ)などの織り方があります)。室町以降途絶えていたこの羅を復活させようと、宮島は織機の先に井戸車からヒントを得た180度回転する滑車を織機に使用することで、平安時代の技法を見事に再現させました。写真ではわかり難いのですが、腰の周囲に帯状に、羅織りによる独特の文様が生まれていることがわかります。

上は蝋染めによる染色作家、宮崎芳郎(みやざき・よしろう)の屏風作品「回想の磯」。宮崎は伝統的な染色技法に飽き足らず、同じ柄で色違いに染めた二枚の作品を小さく切って継ぎ合わせ、一枚の作品に仕上げる「布象嵌(ぬのぞうがん)」と呼ばれる技法を用いたり、ローラーを使って広い面を染めるなど、斬新な技法を用いてモダンな造形感覚溢れる作品を作っています。この作品でも、中央やや下の濃い紫色の部分に、布象嵌の技法が用いられていることが確認できます。

ここに紹介した作家の他にも、切嵌象嵌(きりばめぞうがん)の技法を用いる彫金作家、辻清(つじ・きよし)による琵琶湖のテナガエビをあしらった「切嵌象嵌箱 水辺」(県有美術品)や、長年滋賀県工芸美術協会の代表も勤めた染織作家・酒井栄一(さかい・えいいち)によるモダンな造形感覚溢れる刺繍作品「工場」など、滋賀県ゆかりの工芸作家たちによる作品が数多く展示されています。
常設展示「滋賀の工芸」は6月26日(日)まで。春から初夏にかけての行楽シーズンに合わせて、ぜひご観賞下さい。


■常設展示「滋賀の工芸」4月5日(火)−6月26日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料 ( )内は20名以上の団体料金。
※併設「マチスピカソ」「小倉遊亀コーナー」も一緒にご覧いただけます。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。