常設展示「志村ふくみと滋賀の工芸」の見どころ紹介(2)


本日5月15日(火)より、常設展示「志村ふくみと滋賀の工芸」に展示中の志村ふくみ・森口華弘作品が展示替えとなりました。新しく展示された作品は以下のとおりです。
志村ふくみ「朝顔」「花散里 」「野分」「明石の姫君」「松風」「須磨」「夕顔」「蛍」「小ぐら屏風」 以上9点。森口華弘「創流」「竹間」「羽衣」 以上3点。

さてこの日本画・郷土美術部門の常設展示「志村ふくみと滋賀の工芸」の内容を紹介するシリーズの、第2回をお届けします。前回取り上げた志村ふくみ作品に引き続き、今回も展示作品の中から「染織」の分野に属する作品をご紹介したいと思います。

志村ふくみと並んで滋賀県を代表する染織の人間国宝作家と言えば、2008年に98歳で没した守山市出身の京友禅作家、森口華弘(もりぐち・かこう)が挙げられます。森口は最初薬剤師を志した後、友禅師の三代中川華邨(かそん)に師事して染織の道に進みました。一方で日本画家・疋田芳沼(ひきた・ほうしょう)に絵を学び、徹底した自然観察に即した優れたデザイン感覚で斬新な着物を次々と生み出し、1967年に人間国宝の認定を受けました。例えば上の作品「創流(しゅんゆう)」は春の清流をモチーフにした作品で、ピンクやグレー、黄土色など様々な色彩を駆使して川の流れるさまを優雅に、あでやかに表現しています。限られた線で自然の姿を生き生きととらえる確かな腕、毎日スケッチを欠かさずに図案のアイデアを練ったというデッサン力の確かさがよくわかります。さてこの作品、特に茶色の地の部分には、よく見ると一面に小さな白い斑点が浮かんでいます。これは細かい糊の粉末を蒔いてから色をひくことで表現する「蒔糊(まきのり)」という技法であり、漆芸の蒔絵(まきえ)にヒントを生み出したという森口華弘オリジナルの技術です。

上の「羽衣」はいったい何をモチーフにした作品なのでしょうか。着物から離れて見るとよくわかりますが、実は着物全体が巨大な菊の花一輪になっているのです。ピンク、黄土色、グレー、そして胡粉(ごふん)をひいた白の4色を巧みに使い分け、あでやかな大輪の菊の花を見事に咲かせています。菊の花の中央部分には、金糸による刺繍も使われています。いかにも京友禅らしい豪華絢爛な着物ですが、実際に使われている色の数は上記4色のみと決して多くありません。この作品に限らず、森口の作品はいずれも友禅着物としては珍しいくらい色数が少なく、最小限の要素で最大限の効果を上げるように見事に構成されているのが特徴です。

大津市在住の宮島勇(みやじま・いさむ)は羅(ら)織りの作家です。羅とは平安時代の公家たちが装束や調度などに用いた有職(ゆうそく)織物のうち、織りの凹凸が光の加減によってさまざまな表情を生む、典雅な品格のある菱形の織文様を指しています(羅の他にも絽(ろ)、紗(しゃ)などの織り方があります)。宮島は室町以降途絶えていたこの羅織りを復活させようと、織機の先に井戸車からヒントを得て180度回転する滑車を使用することにより、平安時代の技法を見事に現代に再現させました。上の作品、羅羽織「海流」は腰の周囲の模様に注目して下さい。羅織りによる独特の斜め織り文様が帯状に連なっているのがわかります。

伊砂利彦(いさ・としひこ)は京都在住の型染め作家。型紙を使用したステンシル技法により、着物から屏風、パネルまで幅広い作品を生み出しています。二曲屏風になった上の作品「月の道」は和紙の上に型染めを施したもので、琵琶湖の上に浮かんだ満月の光が湖面に銀色の道を描き出した一瞬を捉えた、ロマンティックな作品です。

上の作品「山湖寒月」も琵琶湖の上に浮かぶ月をモチーフにした二曲屏風の作品。湖面に映るわびしい月の光を型紙を駆使して見事に表現しています。「模様から模様を作らず」という伊砂自信の言葉にも現れているように、彼の作品は従来の型紙のパターンにとらわれず、自然観察を踏まえた生き生きしたパターンの型紙を想像し、それらを巧みに組み合わせて生命観溢れる模様を生み出すところにその醍醐味があります。

上の作品「緑色の情景」の作者、大津市在住の宮崎芳郎(みやざき・よしろう)は蝋染めによる染色作家です。ローラーを使って広い色面を染めるなど、伝統的な技法にとらわれずにモダンな造形感覚で現代的で清新な作品を作り続けています。彼が得意とする「布象嵌(ぬのぞうがん)」は、いったん染めた作品を切ってずらした後再び継ぎ合わせ、一枚の作品に仕上げるいうもので、特には似た色で染めた二枚の作品を継ぎ合わせて一枚の作品に仕上げることもあります。斬新な技法とモダンな造形感覚がマッチした宮崎の作品は、工芸の枠を越えて抽象絵画のように鑑賞者の心を揺さぶります。

今回は滋賀県ゆかりの工芸作家の中でも。染織作家を中心にご紹介しました。次回は陶芸作家を中心に取り上げる予定です。


常設展示「志村ふくみと滋賀の工芸」 4月3日(火)−6月24日(日)
※志村ふくみと森口華弘の作品は、会期中に展示替えが行われます。前期展示:5月13日(日)まで。後期展示:5月15日(火)から
観覧料(共通):一般 450円(360円)、高大生 250円(200円)、小中生 無料 ( )内は20名以上の団体料金。
※現代美術の展示「《縦》と《横》」(4月3日(火)−6月24日(日))も同時にご覧いただけます。
※企画展の観覧券で常設展もご覧いただけます。