「夏休み子ども美術館」の見どころ紹介(2)


好評開催中の常設展示「夏休み子ども美術館:ひらけ!フシギのたからばこ」の内容をご紹介するシリーズの、第2弾。今回は日本画・郷土美術部門の作品をご紹介いたします。


5.【フシギな いきものの せかい】
このコーナーではファンタジックで奇妙な世界と、そこに住む不思議な生き物を描いた作品を色々とご紹介いたします。

岡田徹(おかだ・てつ)は名古屋出身の洋画家で、シュールレアリアスムの影響下に人間存在の闇をえぐるような奇怪な幻想世界を展開しています。この「水辺」は初期の作品で怪奇な印象はあまりなく、外国の絵本の挿絵のようなファンタジックな雰囲気を漂わせています。中央には月夜の森で水浴しようとする女性が描かれていますが、その頭部は緑色に染まっていてまるでカッパのようです。女性の周囲にも翼を持った猿のような生き物をはじめ、不思議な生き物がいっぱいいます。いったいどれだけ生き物が隠れているか、探してみると面白いですよ。

上は川端健生(かわばた・たけお)の「祭りのあと」。カッパのお面をかぶった少年たちが焚き火を取り巻いている風景ですが、少年たちの表情は談笑するというより静かに瞑想しているようであり、とても祭りのあとの雰囲気には見えません。ひょっとしたらこの少年たち、人間ではなくて本当にカッパの化身なのかも知れません。それくらい不思議で幻想的な雰囲気が画面に満ち満ちています。なお作者は民俗学者柳田国男の「遠野物語」に触発されてこの作品を描いたということです。


6.【フシギな おはなし】
このコーナーでは日本や中国の不思議なお話を元にした作品をご覧いただけます。

紀楳亭(き・ばいてい)の「高士羅浮仙(らふせん)図」は中国の羅浮仙の伝説を描いたもの。むかし隋の趙師雄(ちょう・しゆう)という人がウメの名所である羅浮山で一人で酒を飲みながらウメの花を愛でていたところ、褒められて気をよくしたウメの木の精が美女となって現れ、お酌をしてくれたというお話しです。この作品ではウメの白い花が夜空の星のように黒い背景にちりばめられてファンタジックな雰囲気をかもし出していますが、実はこれは作者が意図したものではなく、本来は銀の箔が貼られていたものが長い年月の間に黒く酸化してしまったがゆえの偶然の産物です。元の絵がどんな雰囲気だったか、想像してみるのも面白いですね。

上は山元春挙(やまもと・しゅんきょ)の「不老富貴(ふろうふうき)図」(写真右は細部の拡大図)です。中国の東の海に浮かぶ、仙人が住む伝説の島・蓬莱山の風景を描いたものですが、登山が趣味で高山の情景などに詳しい春挙は現実感あふれる描写で蓬莱山の険しい山や岩などを描写し、「あり得ないけど本当にあったとしても不思議じゃない」という絶妙のバランスで摩訶不思議な蓬莱山の風景を完成させました。巨大な岩と対照的に米粒のように描かれた仙人たちの姿が、とほうもないスケール感を見事に演出しています。


7.【フシギな 水の ふうけい】
このコーナーではファンタジックな印象を与える風景画のうち、水をテーマにした作品を集めて展示しています。

上は和歌山県三重県の県境を流れる熊野川にある景勝地、瀞峡(とろきょう)に取材して描いた野添平米(のぞえ・へいべい)の「瀞峡図」。瀞(とろ)とは川の流れが淀んでゆったりした流れになった場所のことですが、この作品の中では川の流れはまるで動きを感じさせず、澄みきった鏡のように峡谷の景色を映し出しています。山はほとんど白黒の水墨で描かれ、わずかに茶で彩色されているのみ。川の美しい青色がこの世ならざる不思議でファンタジックな雰囲気をかもし出しています。

上は洋画家・中村善種(なかむら・よしたね)が琵琶湖に取材して描いた作品「冬の倒影」。彦根付近の漁港の冬景色を描いたものらしいのですが、風ひとつなく鏡のように澄みきった湖面に漁村の景色が見事に反転して映し出されているさまは、まるで夢の中の世界のような非現実的な美しさをまとっています。遠目に見たら抽象絵画のようにも見える不思議な光景です。


8.【フシギな 月の ふうけい】
このコーナーでは月をテーマにしたファンタジックな風景をご紹介しています。

上はスケールの大きいシンプルで精神性の高い風景画を多く描いた沢宏靱(さわ・こうじん)の「幻耀(げんよう)」。幻の輝きという意味のタイトル通り、真っ黒な夜の海の遥か水平線が白い光に包まれて不思議な輝きを放っています。空には雲間から月の光が漏れているので、その光が海に反映したものでしょうか。これから何かが起こりそうな期待感をはらんだ、とても神秘的な景色です。

上は揉み紙を利用して柔らかい雰囲気の風景画を多く残した吉田善彦(よしだ・よしひこ)の作品「桜」。満開のピンクの花が洪水のように画面いっぱいに溢れるファンタジックな作品です。よく見るとサクラの木は梢に近い部分だけをアップで描いたものであり、右上には木の陰から大きなおぼろ月が昇ってくるところです。サクラと月の相乗効果により、幻想的な世界が見事に演出されています。


9.【フシギな シンボル】
最後のコーナーは、あるものを直接描かずにシンボルで代用させることによる、ちょっと不思議な表現で描かれた作品をご紹介いたします。

上は岸竹堂(きし・ちくどう)の作品「三社図」です。六曲屏風の右隻に三頭のシカ、左隻に海から昇る朝日と空を飛ぶハトの群れが描かれているだけの作品です。しかしタイトルの「三社=3つの神社」とはどういうことなのでしょうか。実はこの絵に描かれているのは近畿地方の有名な3つの神社のシンボルであり、シカは奈良県春日大社の、朝日は三重県伊勢神宮の、そしてハトは京都府八幡市石清水八幡宮の、それぞれシンボルになっているのです。3つの神社のシンボルを同画面に描くことにより、この絵を見ただけで3つの神社に同時に参拝したような気分になれるという、実にお得な作品なのです。

今回ご紹介した作品以外にも、まだまだ不思議な作品がいっぱいの「夏休み子ども美術館」。ぜひご家族で、お子様連れでご鑑賞下さい。一緒に楽しく会話しながらご鑑賞いただくと、きっと美術がもっともっと好きになれますよ。


常設展示「夏休み子ども美術館:ひらけ!ヒミツのたからばこ」 6月26日(火)−9月2日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円))、高大生 250円(200円)、小中生 無料
( )内は20名以上の団体料金。
※企画展の観覧券で常設展も観覧できます。
※毎日、午後2時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。