屏風を鑑賞するための基礎知識(2)


4月10日(日)まで開催している企画展示『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』展の出品作品をもとに、屏風(びょうぶ)をもっと深く、そして広く鑑賞するための基礎知識について紹介するシリーズの第2弾です。今回は屏風の「連結法」についてお話しいたします。

日本に伝わって来た当初の屏風は、6枚のパネルを横に並べ、革や絹の紐で連結するというかたちを取っていました。それぞれの扇(せん)を連結させるための金具をはめ込む必要から、扇の周囲には木枠が取り付けられ、錦や綾で縁取りが施されていました。

上の写真の作品は現在京都国立博物館に収蔵されている、旧東寺蔵の「国宝 山水屏風」(11-12世紀、平安時代)です【参考図版。出品作品ではありません】。6つの扇が横に並んで連続した風景画をかたち作っていますが、それぞれの扇は周囲が縁取られていて、風景は扇と扇の境界で分断されています。14世紀に和紙の蝶番(ちょうつがい)が発明されるまでの奈良・平安・鎌倉時代の屏風はこのように、扇の連結部分で画面が分断されるのが特徴です。


室町時代に、扇と扇を連結する画期的な方法として、和紙の蝶番が発明されました。これにより、各扇がひと繋がりの一体化構造になり、各扇を縁取る必要が無くなって、連続した大画面の屏風絵を描く事が可能になりました。

上の写真は江戸時代中期に描かれた高田敬輔(たかだ・けいほ)の「山水図」ですが、各扇が縁取られずにひと繋がりの風景画になっていることがわかります。このような紙の蝶番の出現で、絹の布ではなく和紙に描く紙本(しほん)地の、大画面の屏風が出現しました。室町・桃山・江戸時代にかけて、水墨画や華麗な金地による、大画面の屏風が数多く制作されました。
こうして「く」の字形が連続する蛇腹状に折り曲げて畳める、現在の我々に馴染み深い屏風の形式が完成しました。江戸時代後半には、屏風は寺社仏閣や大名屋敷のみならず、富裕な町人の間にも広く普及することになりました。

一方で大画面とは逆に、屏風の一扇ごとに小振りな別々の絵画を取り合わせて貼り付ける「押絵貼(おしえばり)」と呼ばれる屏風が流行します。押絵貼屏風の画題には、12の扇にそれぞれ1月から12月までの風物や花鳥を配した「月次絵(つきなみえ)」などがあります。上の図版は江戸末期に描かれた、中島来章(なかじま・らいしょう)の「十二ヶ月図」で、月次絵屏風の代表的な作例です。このような小画面の流行の背後には、絵師を支えた支持層の変化や、文人画の流行など時代の推移があったものと考えられます。

今回は屏風の各扇の連結法についての解説をいたしました。次回は屏風のかたちと画面に描かれた図像の関係についてお話しする予定です。


『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』
◆会 期:2011年 2月19日(土)−4月10日(日)
◆休館日:毎週月曜日 ただし3月21日の祝日は開館。 翌3月22日(火)は休館
◆観覧料:一般 750円(550円) 高大生 500円(400円) 小中生 300円(250円))
      ( )内は前売および20名以上の団体料金
◆出品予定作品:江戸時代から昭和期までの、襖、屏風装による日本画作品約25件

★毎日、午後1時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。