次回企画展『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』の内容ご紹介(2)


2月19日(土)から始まる新しい企画展『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』の内容をご紹介するシリーズの、第2回です。今回は出品作品の中から、江戸時代に描かれた作品を何点かご紹介します。

上の写真は前回も紹介した、近江国蒲生郡日野(現在の滋賀県日野町)出身の江戸中期の画家、高田敬輔(たかだ・けいほ)の「山水図」です。敬輔は近年に人気が高まってきた江戸中期の異色の画家、曽我蕭白(そが・しょうはく)が学んだ画人として、目下注目を集めている存在です。最初、狩野派(かのうは)を学びますが、その後は元(げん)や明(みん)の中国絵画などを学んで独自の画風を打ち立てました。故郷日野の信楽院に残した天井画が彼の代表作ですが、この「山水図」も脂が乗った時期の重要な大作です。仙人が住むという蓬莱山を思わせる架空の世界の風景で、同じような形が連なった奇異な姿の山々を、潤い豊かな墨の描線で躍動感たっぷりに描いています。岩の隙間から勢いよく流れ出す滝、手で掴めそうな奇妙な存在感を持った雲など、およそ実景に即して描いたとは思えないような奇妙な光景ですが、力強く伸び伸びとした表現は非常に印象深く、心に強く訴えるものがあります。

上の作品は文人画の大家・与謝蕪村(よさ・ぶそん)の弟子で、大津で長く活躍したため近江蕪村と呼ばれた紀楳亭(き・ばいてい)の作品「春社(しゅんしゃ)図」です。春社とは古代中国で生まれた慣習で、土地の守護神である産土神(うぶすながみ)を祀る社日(しゃにち)の祭りのうち、春に行われるもののことですが、この作品には祭りそのものではなく、春社の祭りで酔っぱらって家人に介抱されながら帰途につく老人たちの姿が、ユーモアたっぷりに描かれています。師匠である与謝蕪村の作風を彷彿とさせる、詩情をはらんだ奔放な描き方が特徴的です。なおこの作品は襖絵のかたちをとっており、元は大津市旧東海道筋にあった両替商の旧家に伝えられていたものです。

上の写真は近江国の大津出身、あるいは信楽出身とされる中島来章(なかじま・らいしょう)の「十二ヶ月図」です。来章は幕末期に活躍した京都画壇の重鎮画家で、平安四名家のひとりとうたわれ、特に花鳥画を得意としていました。この作品はタイトルが示すとおり、六曲一双の屏風の12の扇に一枚ずつ、1月から12月までのそれぞれの月にふさわしい植物と小動物を描いたものです。このように十二ヶ月の景趣を順に描いた絵は「月次絵(つきなみえ)」と呼ばれ、古く平安時代から日本絵画の代表的なジャンルをなしてきました。ちょうど六曲一双の屏風に十二ヶ月がうまく収まるため、屏風絵として描かれることも多かったようです。

上は1月から3月までの拡大図です。1月は松に丹頂鶴、2月は梅に鴬、3月は牡丹に生まれたばかりの子犬が描かれています。いずれも写生を重んじる京都画壇の画家らしく、巧みなデッサンによって生き物の姿と季節感が生き生きと描き出されています。

上の写真はやはり幕末期に活躍した京都の画家、岸連山(きし・れんざん)の「龍虎図」です。連山は岸駒(がんく)に始まる「岸派」を嗣いだ画家で、滋賀県彦根出身の近代日本画の先駆者、岸竹堂(きし・ちくどう)の師匠として知られています。岸派は代々動物画を得意とし、特に虎の絵には定評がありました。けれども連山は、実際に生きた虎を見たことはありませんでした。鎖国が続いていた江戸時代の日本では、生きた虎を見ることは不可能に近いことだったと思われます。けれども連山は虎の皮の敷物を参考に、想像をたくましくして迫力満点の虎の絵を描きました。

上の写真は虎の拡大図ですが、本物の虎を見慣れている我々現代人の目からはいささか珍妙に見える姿ではあるものの、猫をはじめとするさまざまな動物の観察が生かされ、毛並みの表現などは驚くばかりの迫真性を見せています。この虎の絵と対になる龍の絵も、嵐ととともに飛来する神々しくも恐ろしげな姿が迫力満点に描かれており、岸派の総帥の面目躍如たるところを見せています。

次回は明治時代以降の作品をご紹介いたします。


『襖と屏風−暮らしを彩る大画面の美−』
◆会 期:2011年 2月19日(土)−4月10日(日)
◆休館日:毎週月曜日 ただし3月21日の祝日は開館。 翌3月22日(火)は休館
◆観覧料:一般 750円(550円) 高大生 500円(400円) 小中生 300円(250円))
      ( )内は前売および20名以上の団体料金
◆出品予定作品:江戸時代から昭和期までの、襖、屏風装による日本画作品約25件

★毎日、午後1時から美術館サポーターによるギャラリートークを行います。