1月21日開催 冬の常設展示 予告

冬期休館が明ける来年1月21日(土)から、常設展示室も新しい内容でオープンいたします。展示室1,2のいずれも、同日オープンの企画展示『近代の洋画・響き合う美─兵庫県立美術館名品展─』に関連した内容です。常設・企画が一体となってのコラボレーション展示をお楽しみ下さい。(会期は4月1日(日)まで)


《展示室1:日本画・郷土美術部門》では、滋賀県出身で関西洋画壇の重鎮であった黒田重太郎(くろだ・じゅうたろう)と、日本的洋画の開拓者のひとり野口謙蔵(のぐち・けんぞう)を中心に、滋賀県ゆかりの洋画家たちの作品を展示する『滋賀の洋画』を開催いたします。

黒田重太郎は滋賀県大津市で大阪の豪商の家系に生まれ、鹿子木孟郎(かのこぎ・たけしろう)や浅井忠(あさい・ちゅう)に師事して洋画を学び、渡欧後は小出楢重(こいで・ならしげ)や鍋井克之(なべい・かつゆき)らと信濃橋洋画研究所を設立したり、戦後の二紀会の結成に加わるなど、昭和の関西洋画壇を支えた重鎮画家のひとりです。今回の展示では初期から晩年に至る代表作8点を一堂に展示し、その画業を偲びます。盟友・鍋井克之や小出楢重の作品は企画展で観覧できるため、ふたつの展示を通して昭和期の関西洋画壇の動きを複眼的に概観することができます。また師・鹿子木孟郎の作品も常設展示室でご覧いただけます。(写真:黒田重太郎「白衣大師」)

滋賀を代表するもうひとりの巨匠・野口謙蔵は、東京美術学校和田英作(わだ・えいさく)に師事し、卒業後は郷里の蒲生町(現・東近江市)にこもってひたすら郷土の自然と人々の暮らしを、愛情込めて描き続けた画家です。その作風は油絵でありながら、日本画、特に南画(文人画)を思わせる自由奔放で軽妙な味わいがあり、また日本絵画特有の構図法なども巧みに用いることによって、「油絵で描いた日本画」と評される独特の世界を完成させました。生涯滋賀から離れることなく夭折したため、長い間知る人ぞ知る存在でしたが、近年になって梅原龍三郎(うめはら・りゅうざぶろう)や坂本繁二郎(さかもと・はんじろう)らと並ぶ「日本的洋画の開拓者」のひとりとして再評価が進んでいる画家でもあります。(写真:野口謙蔵「冬日」)

本展示ではこの二人を中心に、彦根漁港の風景を描き続けた島戸繁(しまど・しげる)、近江八幡出身の伊庭伝治郎(いば・でんじろう)、野洲出身の鷲田新(わしだ・あらた)など、滋賀県ゆかりの画家たちの作品を多数展示し、湖国洋画壇の全貌を概観いたします。


一方《展示室2:現代美術部門》では、斎藤義重(さいとう・よししげ)、吉原治良(よしはら・じろう)ら前衛洋画の先駆者たちの作品から始まり、日本の戦後現代絵画の流れを概観する『日本の前衛』を開催いたします。
企画展『近代の洋画・響き合う美』では、昭和戦前期の二科会において前衛的な表現を追求した「九室会」のメンバーであった、吉原治良斎藤義重、菅井汲(すがい・くみ)らの、初期の作品を展示しています。これを引き継ぐかたちで常設展示室では、彼らの戦後期の作品を展示し、前衛洋画と現代美術を一本の糸で繋いでみます。

斎藤義重は戦前から抽象表現を志向していた、日本における抽象絵画の先駆者のひとりですが、戦後はパリの路地の壁の落書きをヒントに、合板を電動ドリルを用いて溝をガリガリと削ることにより、絵筆では表現できない独特の表現を開拓しました(写真上)。その後も前衛表現の模索を続け、日本現代美術の長老格として評価されています。(写真:斎藤義重「作品12」)
また吉原治良は戦前にはシュールレアリスム系の作品、終戦直後は叙情的抽象絵画を描いていましたが、昭和30年代に兵庫県・芦屋で若手の芸術家たちと「具体美術協会」を結成、「未だ誰も試みたことのない方法で絵を描け」をモットーに、足で絵を描く白髪一雄(しらが・かずお)、ラジコン自動車に描かせる金山明(かなやま・あきら)等、多くの世界的作家を育成しました。吉原治良みずからも画面いっぱいに大きな「○(まる)」を描く、禅の境地を思わせるような独特の抽象絵画を開拓し、リーダーとしての格を示しました。

菅井汲は渡仏後に、道路標識と日本の家紋をヒントに、極度に図案化されたシンプルで強烈な印象を与える作風を開拓し、世界的な人気作家になりました。スピード狂で有名な彼は、猛スピードで車を走らせていても、一瞥しただけでその意味を理解できる道路標識にあやかって、一目見ただけで内容が伝わるような作品を目指したのです。上の作品「まるい森」も、作品の中には木のイメージや森のイメージがまったく用いられていないにもかかわらず、全体を見ると何となく「まるい森」というタイトルに納得してしまえるというユニークな作品となっています。

本展示では今回紹介した作家の他、1960年代に海外で活躍した草間彌生(くさま・やよい)や篠原有司男(しのはら・うしお)、70年代初頭のコンセプチュアル・アート(概念芸術)を代表する世界的作家である河原温(かわら・おん)や荒川修作(あらかわ・しゅうさく)、日本のミニマル・アート(最小限芸術)を代表する桑山忠明(くわやま・ただあき)とや山田正亮(やまだ・まさあき)、ハイ・レッド・センターというグループで実験的な活動を繰り広げた高松次郎(たかまつ・じろう)や中西夏之(なかにし・なつゆき)など。日本の現代美術史を彩った錚々たる顔ぶれの作品群を展示し、戦後日本現代美術の流れを概観していただきます。


常設展示「滋賀の洋画」「日本の前衛」 1月21日(土)−4月1日(日)
観覧料(共通):一般 450円(360円)、高大生 250円(200円)、小中生 無料
( )内は20名以上の団体料金。

※企画展「近代の洋画・響き合う」(1月21日(土)−3月11日(日))の観覧券で、常設展もご覧いただけます。